home > text > very short

残酷な面影

 あいつが逝ってしまってから、何日経っただろう。
 とろくて、あまりおつむのいいヤツではなかったが、一緒にいるのは結構楽しかった。
 ケンカばかりの日々だったが、「ケンカするほど仲がいい」という言葉もある。きっといい関係だったのだろう。
 街中を歩いていると、ときどきハッとすることがある。
 あいつに似ているヤツとすれ違ったときだ。
 おれがあまりに露骨に驚くもんだから、変な顔で見られることもしばしば。
 それはまだマシな方で、血相変えて追っかけてくるやつもいた。
 なんとかそいつを振り切ってから、しばらくし、再び「ヤツはもうこの世にいないんだ」ということを痛感するのだった。
 ある日、おれはヤツと瓜二つとも思えるようなそっくりなヤツに、ばったりと出会った。
 思わず声をかけてしまい、彼は不思議そうな表情を浮かべた。
 事情を話すと、彼は深く共感してくれ、涙まで流してくれた。
 それを見て、おれも泣いた。
 よかったら遊びに来ないかと言われ、ためらいなくその提案にのってしまう。
 いつもならこんなことは絶対ないのだが、そのときはどうかしていたのかもしれない。
 おれは油断していた。
 そいつのたくらみに気づくまで、そう時間はかからなかった。
 だが、気づいたときにはもう遅い。
 やつは強力な力でおれを取り押さえ、舌なめずりしながら、こう言った。
「いただきます」と。
 そして、おれはタベラレタ。
 あっけない幕切れだ。
 薄れゆく意識の中で、おれはこいつと同じ青い毛並みのトムのことを思い出していた。

Sep. 7 ,2007


home | text | bbs