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黒の群れの中で

 吐き出される黒の群れ。
 吸い込まれる黒の群れ。
 沈痛な面持ちで嗚咽をもらしたり、声をあげて泣きじゃくる人々。
 だが、必ずしもみなが悲しんでいるわけではない。
「よう、久しぶり」
「おお。何年ぶりだよ」
「んー、この前の同窓会以来だから、ざっと五年ぶりか」
「そんなに経つか」
「ああ。しかし驚いたな。まさかこんな早くに」
「だな。まだ二十の後半だぜ」
「そういえばさ」
「ん?」
「ここだけの話だが。どうも刺されたらしいぜ」
「刺された? 誰に?」
「つきあってた女だと」
「ああ。分かる気がするよ。あいつ昔から女関係派手だったしな」
「そうそう。二股とかは当然といった感じでさ。あの頃はいつか刺されるんじゃねえかと、冗談半分で言ってたもんだが、まさか本当にそうなるとはな」
「まったく」
「そういや、あの頃、お前、彼女とられたんじゃなかったっけ?」
「もう昔のことだ」
「あんときは『ぶっ殺してやる』とか言ってたじゃないか」
「おい、やめろよ。こんなときに」
「ああ。そうだな。すまん」
「神様はちゃんと見てるってことだ。ま、自業自得ってやつだ」
「ちょっとうれしそうじゃないか」
「そんなことねえよ。不謹慎だな」
 ひそひそと話を続ける男たち。
 明らかに彼女をとられた方の男の顔に悲しみはない。
 むしろ、すがすがしささえ感じられる。
 自分の葬式でこんなことを言われて、果たして成仏できるものだろうか。
 いや、できるはずもない。
 だからおれはここにいるのだ。
 さて、それじゃあどうしよう?

July 24 ,2006


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