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死に至る夜明け

 俺たちはコトバを奪われた。
 傷害、殺人、強盗、誘拐、強姦……。
 悪事と言う悪事をこれでもかというほど、極め尽くしてきた。
 そんな俺たちを待っていたのは、生々しい地獄だった。互いに意志の疎通をとれないようにコトバを奪われ、どこにも逃げることができないように強固な檻の中に閉じ込められた。きちんと食事は出されるものの、それは監禁という名に相応しい行為だった。今までやってきたことを考えたならば、これくらいではまだまだ足りないのかもしれない。幾人ものやつらが俺たちを殺したいほど憎んでいることだろう。
 そして、彼らの願いは近いうちに叶えられるのだ。
 閉じ込められた俺たちはいつか処刑される運命にある。いつなのかは分からない。けれどもそれは確実にやってくる。こんなところに長い間閉じ込められている俺らは、まともに抵抗することもできない。
 腕っ節が自慢で、いつも破壊の限りを尽くしてきた相棒も今朝、檻から出され、そのまま帰ることはなかった。どうすることもできなく、ただ黙ってやつの姿を見送った。前の姿とは似ても似つかぬほど、やつはやせ細っていた。悲しいとか、憎いとかいうよりも、強大な恐怖が全身を襲った。こんな姿になった俺たちを、やつらは全く容赦することはない。むしろ、こんな姿だからこそ、やつらの罪の意識も薄れてしまうのだろう。
 今まで散々悪事をやってきたくせに今更何をぬかす。
 やつらはそう言うだろう。しかし、攻撃を仕掛ける方というのは、たいがいが一方的である。暴力を前にすると普通の人間は抵抗することすらかなわない。圧倒的な力の前に、人は無力である。立場が逆転してみて、それを痛感させられた。所詮俺たちも、今まで殺してきた人間と、どこも変わるところはないのだ。
 だんだんと暗い夜が明けていく。
 空は陽の光を受け、色を帯びていく。
 しかし、そこに希望はない。
 未来もない。
 少なくとも俺たちにとっては。
 朝焼けを見ていると、どうしようもなく感情が高ぶる。
 心にあるわだかまりを、全て外にぶちまけたいという衝動が起こる。
 それは懺悔でも、後悔でもない。
 ただの心の叫びなのだ。
 今日もまた、夜明けの空に俺たちの声がこだまする。
「コケコッコー」

Sep. 19 ,2003


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