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冷却贖罪
天国から地獄へ。
ぬるま湯につかりきっていた俺は、強制的に凍てつくような流れに身を打たれた。
すべての細胞が驚きを隠せないまま、血液はこれでもかというくらいに血管の中を激しく暴れまわる。
贖罪なのか?
冷たくなっていく身体に対し、思考はどんどん澄み切っていく。
彼女にしたことを思えば、これが俺に与えられた罰といえなくともない。
意識的にせよ、無意識にせよ、彼女のか細い手は、俺の命を剥き出しの状態にした。
もろくはかない命が、冷たい流れの中にさらされる。
だんだん感覚がなくなっていく。
手がかじかみ、震えを帯びる。
このままおとなしく受け入れるべきなのだろうか。
そうすれば彼女の気もいくらか晴れるのかもしれない。
目を閉じ、しばし思いをめぐらせる。
彼女はあのとき激昂して泣いていた。
その涙の原因は間違いなく俺だ。
頭では罪の意識を感じていても、身体は断固としてこの状況をぬけだしたがった。
ここで命を落とすのは馬鹿らしい。
やはり俺は、生きたい。
意を決し、ゆっくりと立ち上がる。
冷え切った身体に活を入れ、しっかりと閉ざされた扉を開く。
冷たかった空気の中に、暖かい空気がゆっくりと入り込んでくる。
懇願する思いで俺は叫んだ。
「おねえちゃん! ケーキ食べたのは悪かったから、シャワーのお湯でるように早く戻して!」
Dec. 7, 2003