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コトバとココロ

「だからぁ、違うって言ってるでしょ。そんなんじゃないの。あれはただの友だちなんだから。うん。そう。うん。違う違う」
 その女性はさっきからずっとケータイで話をしていた。
 肩まで伸びた金髪に近い茶髪。もともとの造形が分からなくなるまでに塗りたくられた厚化粧。語尾がはっきりとしない舌足らずなしゃべり方。今どきの若い女性のサンプルのようなイキモノ。自由だ個性だと言いながらも、彼女らにマニュアルがあるのは明白だった。なにせみな同じブランドに身を包んで、同じような化粧をしているのだから。
 わたしはため息をつきながら、ぬるくなってしまったコーヒーを口に運ぶ。
 かれこれ三〇分は話しているだろうか。
 ちらっと後ろを振り返ってみるが、まだまだ話は終わりそうにない。
 永遠に続くのではないかと思えるほど、同じトーンで同じような内容の話が続けられている。まるで壊れたレコードが同じところを演奏するように。
 時計を見るとすでに話し始めてから三十四分が経過していることが分かった。
 そろそろ限界だろう。
 感情も抑えきれなくなってきた。
 一言言ってやらねば。
 そう思って席を立つ。
「あの」
 遠慮がちに声をかける。すると女性は「何?」といった感じに眉を上げてわたしを見上げた。当然、携帯は持ったままだ。
「その電話いつ終わるんですか」
「はぁ?」
 異様に後ろ上がりの疑問符をわたしにぶつけてくる。
「てか、あんたに関係なくない?」
「関係なくはないでしょう」
「何? 何か関係あるわけ?」
 女性のそのしゃべり方に怒りがこみ上げてきたが、何とかそれを抑え込む。こんなことできれてしまっては、うまくいくこともいかない。
「わたし、あなたのことが好きなんです」
 きっぱりと言い切り、女性の瞳を見つめる。彼女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「は? あんた何言ってるの?」
「好きだと言ってるんです」
「ちょ、えぇ?」
 驚いて言葉を失う彼女。
 ただ言葉を発しない自分。
 微妙な沈黙の間。
 そして数秒後、
「何か、キモいおっさんいるから店出るね」
 彼女は電話の向こうの相手にそう伝えると、怪訝そうな顔でわたしのことを見ながら店を出てっ行った。
 その後姿を確認し、わたしは深く息をついた。
 よかった。
 これで静かになった。
 そう思っていても、目に涙が浮かぶのはなぜだろう。

Feb 6,2005


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