彼の言葉
この世の悩みをすべて背負っているかのように、少年は机に突っ伏していた。
休み時間に入ってから、もうかれこれ五分はこの状態を保っている。
まるでそこだけ時が凍りついているかのようだ。
教室は昨日のテレビや、今日発売のマンガ雑誌、最近流行りのアーティスト、それから放課後何をしようかという話題で埋め尽くされている。キャーキャーという女子の騒ぎ声、ガヤガヤとじゃれあう男子の群れ。そんな溢れんばかりの喧噪の中で、少年は微動だにせず突っ伏している。
が、突然、彼は椅子をひっくり返す勢いで立ち上がった。
「そうか。わかった!」
その声は喜びと興奮にあふれている。
周りにいた女子は「なになに?」とコソコソ言いながら、彼の様子をうかがっている。
そんな様子は気にも留めず、少年はカツカツと歩きだした。
幾人かの女子がその様子を見守っている。
少年はある男子の群れの前で止まり、その中のひとりの肩を叩いた。
「おい」
「ん? どした?」
「ようやく分かった」
「何が?」
「君が好きだ」
そう言い終えた少年の顔には、満面の笑みがはりついている。
「は?」
一方、そう言われた方はぽかんと口を開けている。
「キャーーー」
次の瞬間、それを聞いていた女子の一団が、黄色い声をあげた。目の前の滅多に見られない大胆不敵な光景に興奮しまくっている。
「え?」
少年は何が起こったのか分からず、辺りを見回した。
「ねえねえ、いつからいつから?」「どこが好きなの?」などと、次から次へと質問の矢を浴びせかける。
だが、少年は彼女たちが何をそんなに騒いでいるのか理解できない。
「え? 何が?」
「今、告白したんでしょ?」
「は?」
女子のうちのひとりが、さっき言葉をかけられた男子を指さす。
「いや、違う違うっ」
「またまた、今さらとぼけなくていいよ」
「だから違うんだって。そんなんじゃないって!」
「だって、君が好きだって言ったでしょー」
「それは、さっきからずっと思いだそうとしていた曲のタイトルだって」
「え?」
「君が好き」
「キャーーー」
今度は別の女子の集団が黄色い声をあげるのであった。
Dec. 8,2008