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儚く造られし者たち

 何のために造られたのか。
 その理由は分からない。
 そもそも理由などというものがあるのだろうか。
「ここはおかしい」
「もう少し大きくしよう」
「あれを持ってきてくれ」
 彼らの声が飛び交う中、わたしは自分の完成を待った。彼らは見た目を重視したが、わたしとしては丈夫さが欲しかった。身体の大きさというのも重要なポイントだ。
 大きさが足りないため、すぐに逝ってしまう者。悪意ある者によって破壊されてしまう者。完成にも至らずに途中で放棄されてしまった者。そういう仲間たちは決して少なくない。そんな惨めな最期は御免だった。
 だからこそわたしは、立派な身体を欲した。
 威厳に満ち溢れ、攻撃するのをためらうような、そんな立派な身体を。
 年功がある技術者の彼らなら、それが可能なはず。
 わたしは期待に胸を膨らませ、自分の完成を待った。

 ある日、みなが寝静まった頃、わたしのもとに見たことがない男がやってきた。どうも男は酔っているらしく、わたしに絡んできた。まだ半分しか完成していなかったわたしは、ただ黙って男をやり過ごすしかなかった。
「けっ。何だってこんなものを造りやがるんだ。邪魔でしょうがねえ」
 男がわたしの身体を蹴る。ズボッという嫌な音がする。丈夫に造ってもらった身体だったが、それをも上回る勢いで、男はわたしを蹴ったようだ。酔っているとはいえ、ひどいことをする。わたしは恐怖を感じた。
 だが、次の瞬間、その恐怖は倍増する。
 男はボソボソと独り言を言いながら、信じられないものを取り出した。
 そして、まとわりつくような嫌らしい笑みと、取り出したそれをわたしに向ける。
「へへへへ」
 酔っているからといって許される所業ではない。これは立派な犯罪だ。
 誰かが助けに来てくれるのを待ったが、こんな時間では人は通りそうにない。
 何とかしないと。
 でも何を?
 そんなことを考えているうちに、わたしの身体は溶け始めた。
 寒空の中に、一本の湯気が立つ。
 まるでそれは、わたしの魂のようだった。
 男がかけた液体によって、わたしの身体の一部が破壊されると、それに続くように全身が崩壊を始めた。ズゾゾゾゾという断末魔がわたしの身体から発せられる。男はその光景を、薄ら笑いを浮かべながら見下ろしている。
「どうだ。人間様の力を思い知ったか」
 そう言うと男は、最後に崩れ落ちたわたしの身体を踏み潰した。
 そこにはもう以前のわたしの姿はなく、ただ雪の塊があるだけだった。

Jan. 17,2005


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