疾走ナイト
人の運転する車に乗っていて恐怖を感じるということはあまりない。
それを感じさせる運転をするのは、わたしの周りではKくらいのものだ。
実際、彼の運転技術はなかなかのものである。
例えば、駐車をするときなどに「あの柵から5センチのところに止めるから」などと言い出したりする。止めてから降りてみると、確かに柵ギリギリのところにタイヤがある。車体の幅が正確に分かっていないと出来ないワザだ。
だが、その技術のせいでかなり無茶な運転をすることも事実である。
道路脇に止まっている車のすぐ側を、かなりのスピードで通過したりすると、「人が出てきたらヤバイだろ」とハラハラさせられる。
冬の日、大きい駐車場が雪で覆われていたりすると、わざわざ雪が積もっている中へ車を走らせ、ドリフトをしたこともあった。予想以上にすべったため「今のは焦った」と笑いながら言う。こっちとしては笑顔が凍りついてしまう。
数ある恐怖ドライブの中でも最も怖かったのは、夜の疾走事件だ。
その日、夕飯を食べ、ゲーセンなどで遊んでいるとずいぶん夜も更けてしまった。
そろそろ帰るかということになり、彼の車に乗り込む。さすがに街の中は車が多いので、それほど運転も荒々しくならない。(それでもムダに追い越しをかけたりするのだが)
だが人里から離れ始めると、じわじわと恐怖感が増してくる。彼の家はなかなかの田舎にあるため、途中田んぼの真ん中を突っ切る。もちろん道は狭く、ぎりぎり車2台が通れるか通れないかといったところだ。
あろうことか、そんな道で彼はどんどん加速を始めた。
「おいおい、対向車来たら避けられないぞ」
「大丈夫大丈夫、夜だから誰も来ないって」
その根拠なき言葉はまったくわたしを安心させてはくれない。なにせすでに160キロでてるのだ。
夜の田んぼを疾走する時速160キロの車。
ちょっとした都市伝説にでもなりそうではないか。
こりゃ対向車が来たらジ・エンドだな。
あきらめて手すりにつかまっていると、車が大きく跳ねた。
というか、飛んだ。
あぜみちの段差を通ったのだ。
「今、飛ばなかったか?」
「うん。飛んだね。ははは」
楽しそうに笑うK。
呆れるわたし。
いやぁ、車って飛ぶものなんですね。
初めて知りましたよ。
Sep. 22, 2006