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幼き戦士たちの夜

 中学生のときだったろうか。
 従兄弟など5人くらいと祖父母のところに泊まったときのことである。
 全員男だったので、変な気も遣わずバカなことばかりを話していると、自然と話題は下ネタの方にシフトしていった。
 まだ純粋であった我々は、未知なる性というものに対し、いささか興奮しながら議論を交わし始めた。
「そういや、あそこの本屋に自販機あるべや」
「あー、あるね」
「あそこでエロ本売ってるよ」
「なにっ!」
 テンションがヒートアップし、猛々しい好奇心は我々の身体を突き上げた。高まる感情を抑えながら、大人たちが寝静まるのを待つ。
 そして、暗闇の中、男たちは自転車をまたいだ。
 田舎の町ということもあり、夜遅くなるとどの店も閉まっている。街灯のぼんやりとした明るさだけが町を照らす。
 その中を疾走する幼き戦士たち。
 瞳には熱き炎が灯っている。
「ここか」
 辺りを窺いながら、我々はとうとう自販機と対峙した。
「どれにしようか」
「どれでもいいから早くしようぜ」
 財布から小銭を出し、投入していく。それは男たちの情熱を注ぎ込むかのようであった。
 ガコンッッ!
 静寂を打ち破る、本の落下音。あまりの音の大きさに、身体がこわばる。そして、そわそわと辺りを見回す。
「な、なにぃぃ!」
 本を取り出したひとりが驚きの声をあげる。それに周りも驚く。
「どうした?」
「これを見てくれ」
 両手に載っていたものはサンデーであった。わたしたちは目を疑った。
「確かにこのボタンを押したんだ」
 彼の指先には、確かにそれっぽい表紙の雑誌がある。
「くそっ。なんて卑怯なマネを」
 もちろん苦情など言いに行けるはずがない。
「仕方ない。別のやつでいってみよう」
 そういってまた情熱を注ぎ込む。
 ガコンッッ。
 今度はちゃんと目当ての本が出た。かわいらしい女性の絵が、我らを祝福しているかのようだ。
「よし。帰るぞっ」
 高鳴る鼓動を胸に、わたしたちは再び夜の町を疾走するのであった。

Sep. 25, 2006


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