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ゴキロが家にやってきた

 ヤツは厳重に梱包されてやってきた。
 まずは大きな紙の箱。
 次に発砲スチロール。
 そして、また紙の箱。
 中には新聞紙。
 そして、ビニール袋に包まれたヤツ。
 最初に箱を開けた段階で、ヤツの気配がビンビン伝わってくる。それは「ニオイ」と言い換えてもいい。
 かなりの酸味が鼻腔を貫く。
 まずはその量に驚く。
 なんと5キロもある。
 普通小さなパックで売っているヤツは200グラムくらいだから、およそ25倍である。
 尋常な量ではない。
 賞味期限というタイムリミットがあるため、自分だけでさばけるものではない。
 すぐさまスーパーに走り、大小さまざまなプラスチックのケースを買ってくる。
 ケースをならべ、深呼吸し、慎重にヤツを取り分けていく。
 入れても入れても、一向に減っていく気がしない。無限に続くのではないかと思われた行為も、ケースをすべて使いきるころにはようやく終わりをみせる。
 今度は保存である。
 パズルのように工夫しながら、冷蔵庫にケースを入れていく。すると、すぐにそこはヤツで一杯になった。
 しかもニオイが半端ではない。しっかりと覆い、ビニール袋に包んだところで、焼け石に水だ。冷蔵庫の中どころか、部屋全体がヤツの香りに染まっていく。
 少々、鬱になる。
 気を取り直そうと、味見をしてみると、思ったほど辛くはない。辛味より、むしろ酸味の方が強い。決してマズイものではないのだが、これほどの量はお相手できない。
 とりあえず、ご近所のみなさんや、知り合いなどに手当たり次第に配っていく。
 それが済んでもまだ、でかいケースが2つも残っている。
 タイムリミットまで、すべて処理できるだろうか……。
 その日から、食卓には毎日のようにヤツがならんだ。
 そのまま食べたり、納豆とあえたり、鍋にしたりして、なんとか消費を進めていく。
 さすがに飽きてくる。
 努力の甲斐あり、タイムリミット内に、ようやくすべてを食べきる。感動に似た達成感が全身を包む。
 近年こんなにがんばったことはないなぁと少々感傷に浸る。
 長く熾烈な戦いであった。
 それにしても、この5キロというキムチ。
 本場、韓国の人はどのくらいの期間で消費するのだろうか。
 一般家庭ですぐに消えてなくなるというのなら、韓国恐るべしである。

Feb. 13, 2008


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