戦慄の踏切
友人と会う約束があったため、その日、ひとり夜の街中を運転していた。
そろそろ目的地という辺りで、踏切に差し掛かる。ちょうど遮断機が下りてきたので、車を止める。
ここの踏切は、遮断機が下りてからも結構時間があるので、くぐって通り抜けてくる人も少なくない。このように「まぁ大丈夫だろう」という気持ちがあるから、一向に事故は減らないのだろう。
そのときもスーツ姿をした男女が、何やら楽しそうに話しながら、いかにも自然に遮断機をくぐりぬけてきた。もちろん電車がまだ見えないのを確認してからだ。
男女から少し後方から、ひとりの女性が走ってくる。歳は20代後半から30代前半といったところだろうか。
てっきりわたしは前の男女に追いつこうとして走ってくるのかと思っていたのだが、どうやら彼らとは関係ないらしく、踏み切りの真ん中で立ち止まった。
そう、遮断機が下りている踏切の真ん中で彼女は立ち止まったのだ。
そしておもむろに身体の向きを電車が来る方向に変える。
これはもしかすると、もしかするのか。
悪寒が走る。
目の前で人が吹き飛ぶ光景など、好んで見たいものではない。見てしまったならば心の傷になるのは間違いなさそうだ。
女性はまだ動かない。
電車がやってくるであろう方向をじっと見ている。しかも、その表情には笑みが浮かんでいるようだ。
これは助けに行くべきだろうか。
しかし、……。
などと迷っていると、彼女はまた身体の向きを変え、ゆっくり歩き始めた。そして遮断機をくぐりぬけ、こちら側に歩いてくる。
近くに来ると、確かに彼女は笑みを浮かべている。笑みというか、ニヤニヤと笑っているのだ。
怖い。
人間、動揺すると不可解な行動をするもので、わたしは思わず車のロックをかけた。普通に考えれば、彼女が車に入ってくるわけはないのだが、それでも何かの自己防衛システムが作動したようだ。
目を合わせたら恐ろしいことが起こりそうなので、わたしは前だけを見て、彼女が脇を通り過ぎていくのを待った。
通り過ぎざま、ちらっと見てみると、やはりニヤニヤ笑っているではないか。
こえぇぇぇ!
やがて電車が通過し、遮断機が開く。
友人に会ってからこの話をしたことは言うまでもない。
いったい彼女の表情が何を意味するのか。それは永遠の謎である。
Sep. 19, 2006