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男たちの夜明け

 それは、ある種宗教的な儀式のようなものであった。
 高校のときの同級生らと久しぶりに再会し、そのまま盛り上がって、カラオケに行くことになった。
 彼らとカラオケに行くのには若干の覚悟が必要だ。とにかくテンションが半端ではない。そしてまた暴れ方も尋常ではない。その中の一人はあまりにもはしゃぎすぎて、靭帯だか、アキレス腱だかを断裂させたことがある。
 カラオケ = 断裂
 こんなイメージをもっている人は他にいないであろう。
 その日もいつものようにフリータイムで入り、朝まで7時間近くの耐久戦になった。
 まずフロントでタンバリンや、マラカスなどの楽器を借り、部屋に入る。
 5分後、男の右手がタンバリンを突き破った。
 早くもヒートアップである。熱伝導のスピードがまともではない。どんどんと攻撃性を増し、エスカレートしていく。
 一人は歌いながら、壁に貼ってあるビールなどのポスターを破り始めた。その手馴れた感じは、彼が初犯ではないことをよく表している。
 一人は絶叫しながら、部屋を飛び出していく。マイクを持ったまま、フロントまで駆け抜け、なぜかでんぐり返しをして帰ってきた。
 一人はソファーの上に立ち上がって、クッションでエアコンを叩き始めた。おいおい、それは楽器じゃないよ。
 わたしはいつ通報されるのかと、気が気ではなかった。こんなことで前科がついたら、恥ずかしさ満開である。
 明け方になるとさすがに暴れ疲れたのか、彼らは泥のように眠り始めた。
 しかし、もちろんこれで終わったわけではない。
 終盤に近づくと、ゾンビのように彼らがムクムクと起きだす。
 いよいよフィナーレだ。
 みながソファーの上に立ち上がり、宴の準備を整える。
 そして歌に合わせ、その場で激しく足踏み(というか地団駄)をする。まるで陸上部の練習だ。Tシャツはどんどん汗を吸い込み、額からは幾筋もの汗がしたたる。
 すごい。
 それは、ある種宗教的な儀式のようなものであった。心なしか彼らの瞳が恍惚に陶酔しているように見える。馬鹿馬鹿しいまでに神秘的で幻惑的な光景であった。
 終わる頃には、全員が海に落ちたかのようにぐっしょりと身体を濡らしていた。やりきった感が我々の空気を満たす。
 店を出ると、外はもう薄明るかった。
 もう二度とこの店には来られまい。
 そんな後悔をよそに、心はなぜかすがすがしかった。

Sep. 14, 2006


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