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暖かな午後の衝撃

 よく行く漫画喫茶がある。
 個室に分かれているタイプではなく、いわゆる普通の喫茶店と同じような漫画喫茶だ。会員証なども必要ではないので、気軽に入ることができる。
 タバコを吸わないわたしは、できるだけ吸っている人が少ないスペースを探し、奥にある席についた。
 柔らかな日差しの中で、仕事の合間のサラリーマンや、買い物途中の主婦などが、真面目な顔をして漫画を読みふけっている。今日はタバコを吸っている人も少なく、匂いが移る心配もなさそうだ。
 一応メニューに目を通すが、注文するものはだいたい決まっている。昼食をとるときは、それなりに考えたりもするが、そうでないときはアイスティーを頼む。もちろん理由は安いから。
 どういうわけか、メニューに、このアイスティーは載っていない。どこにでもある、ありふれたメニューだと思うのだが載っていないのだ。けれども注文するとちゃんと出てくる。
「すいません」
 声をかけると若い男の店員がやってきた。見たことのない顔だ。この店は何度も来ているので、店員の顔ぶれはだいたいわかっている。恐らく学生のバイトだろう。なんとなくぎこちなく、不慣れな印象を受ける。
「注文いいですか?」
「はい」
 男は伝票を手にした。
「アイスティー1つ下さい」
 わたしがそう言うと、彼は衝撃的なレスポンスを示した。
「ホットのアイスティーですか?」
 ホットのアイスティー??
 いやいやいや。
 矛盾してるでしょ、キミ。
 わたしはちょっと驚いた表情を浮かべたが、彼はいたって普通の表情で返答を待っている。自分の奇妙で珍妙な発言には一切気づいていないようだ。緊張のなせるワザか。
「えーと、アイスティーなんですけど」
「ああ、冷たい方のアイスティーですね。かしこまりました」
 腹が腹痛だ、みたいな返答だな。
 小声で「アイスティーだから、冷たくて当たり前では?」ともらしたが、それは彼の耳には届かなかったようだ。
 数分して、もちろん氷が浮かんだアイスティーが運ばれてきた。
 もしあのとき「ホットのアイスティーで」と言ったら、一体何が運ばれてきたのであろう。
 やはりただの温かい紅茶であろうか。
 ホットのアイスティー。
 一度お目にかかってみたいものである。

Sep. 11, 2006


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