短編小説・ショートショート【極楽堂】

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Xdayからの逃亡

 ふざけやがって。
 なんとか呼吸を落ち着かせようと思うが、暴れ狂う心臓がそれを許さない。
 走り始めてから、もうどれくらいが経つのだろうか。いくら走るのに慣れているとはいえ、スタミナは無尽にあるわけではない。
 なんとか呼吸を押さえ、物陰から、辺りを窺ってみる。
 やつの姿はない。
 ようやく逃げ切れたか。
 なんだってまた、こんなことになってしまったんだ。
 やつらにとってどんな意味があるのかは知らない。
 だが決まってこの時期にやつらは狂暴さを増すのだ。
 普段の倍くらいの殺意をぎらつかせ、執拗におれたちを追い立てる。
 見事なまでの狂気。
 もうあいつも捕まってしまったのだろうか。
 幼い頃から一緒に育った仲間のことを思い浮かべる。
 大きな声でよく笑ういいやつだった。
 だが、もう……。
 いや、きっと逃げ切ったはずだ。
 あいつは逃げ足だけは他の誰よりも優れていた。今回もきっとうまくやり通せたに違いない。
 そのとき、ふと何かの気配を感じた。
 咄嗟に後ろを振り返る。
 しまった!
 頑丈そうな網を抱えた男が、おれのことを見てにやりと笑った。
 筋肉に早く動くように伝令を伝えたが、一瞬遅かった。
 びゅんと振られた網が、しっかりと身体に絡まり、動きを封じられる。食いちぎろうとしても、文字通りまったく歯が立たなかった。
「ったく、手間取らせやがって」
 どこかほっとした表情を見せながら、やつが言葉をもらした。
「お前を捕まえられないと、おれが怒鳴られるんだ。悪いが勘弁してくれ」
 おれはただ黙って男を見つめた。
 そうすることしかできなかった。
「そんな目で見るなよ」
 申し訳なさそうにそういって、男は黒くて大きな袋で、おれを包んだ。
 目の前が真っ暗になる。
「よしと。これで家族からも怒られないで済むだろう。クリスマスに七面鳥がないと知ったら、娘たちに何を言われるかわからんからな」
 あいつはちゃんと逃げられただろうか。
 ふと、友の笑顔が頭に浮かんだ。
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