短編小説・ショートショート【極楽堂】

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正当な差別

「彼らに対する差別は不当である、そう申しているのです」
「そうは思えん」
「それは偏見でしょう」
「あながちそうとも言えん。現に我々は、彼らから害を被り、彼らを恐れている人々も少なくない」
「だからといって差別、いやこれはもう迫害といってもいいでしょう。まだ年端もいかぬ子どもたちまでもが、彼らを忌み嫌う言葉をなげつけています。大人は平等を説いているのに、これでは矛盾ではないでしょうか」
「昔からそうなのだから仕方あるまい」
「あなたたち年長者はいつだってそうだ。昔から昔からと、パラダイムに固執しすぎです。時代は常に移り変わっているのです」
「しかしだな、なんの根拠があって、そこまで彼らを弁護するのかね」
「決して彼らも悪人ばかりではないということがわかったからです」
「なに?」
「あなたがたもご存知のはずです。有名な話ですから」
「くっ。あれは例外だろう」
「例外にしろ何にしろ、彼らすべてを排除するという考えは間違っていると思います。他にも我々と友好な関係を築きたいと思っているものがいるかもしれません」
「しかし……」
「ところで」
「なんだね」
「噂に聞いたことですが、彼らを忌み嫌う勢力から何らかの見返りを得ているとか」
「そ、そんなことあるはずないだろう」
「そうですかね。決して見当外れな話でもないと思いますが」
「ええい、黙れ。これは昔からの風習なのだ。簡単に変えることはできん。彼らに対する扱いはこれからも変わらん!」
「結局そうなのですね。わかりました。それならば我々だけでも、あの言い回しは使わないようにします」
「勝手にするがいい」
「失礼します」
 若い男が意気消沈して部屋をでると、無邪気な子どもたちの大きな声が耳に飛び込んでくる。
「鬼は外、福は内!」
 彼らに対する差別は終わりそうもない。
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