短編小説・ショートショート【極楽堂】
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後悔は苦しみと共に
周りの人はあんなに止めようとしてくれたではないか。その制止を振り切ってまで、行動したりするから、このような目に遭うのだ。
あの頃のオレはまだ若く、知識も十分ではなかった。
もしこんなに悲惨な状況に置かれると分かっていたら、あんなことはしなかっただろう。
途切れることなく襲ってくる苦しみに耐えるために、下唇を噛み、コブシを握りしめる。つぶされた昆虫から染み出る体液のように、手から汗がにじむ。
果たして得などあったのだろうか。
こんな苦痛に見合うほどのものが。
そうは思えない。あるのはただリスクだけ。
周りの雰囲気に流されただけかもしれない。
そもそもなぜこんなことを始めたのだろうか。
友人から勧められた?
誰に?
今更考えても仕方がないような疑問が、ポップコーンのようにポンポンと頭の中に浮かぶ。
「おい、どうしたんだよ」
旨そうに煙草をふかしながら、カタギリが声をかけてくる。その満足そうな表情にむかっ腹が立ち、そっぽを向いて返事をしなかった。
「おやおや。ご機嫌が悪いようで」
馬鹿にしたような乾いた笑い声を立て、やつは一気に煙を吐く。
ゆらゆらと紫煙が音もなく昇っていく。
「もうやめちまったらどうだ?」
地面に煙草をこすりつけながら、カタギリが言う。
「うるせえ、話しかけるな」
肩をすくめ、眉をひそめるカタギリ。
「オレはお前のためを思って言ってるんだぜ」
そのすかした顔を思いっきりぶん殴ってやりたかった。
どれほどスッキリするだろうか。
「オレのためを思ってくれるなら話しかけないでくれ」
吐き捨てるように言葉をぶつける。
「へいへい。わかりましたよ」
そう言ってカタギリは、胸ポケットから新しいマルボロを取り出した。そしてライターで火をつけようとするのだが、なかなか火がつかない。火のついていない煙草を口にくわえながら、カタギリは舌打ちをした。
「なあ、火持ってないか?」
その一言でオレはキれた。やつも言い終わってから「やばい」と思ったのだろうが、もう遅かった。すでにオレの右手はやつの襟を締め上げている。
「おい、カタギリさんよぅ。オレが何でこんなに苦しんでるのか、分かってるよな?」
「わ、悪かった。今のは本当に悪気はなかったんだ」
だいの大人が半泣きで謝る姿を目の当たりにすると、駆け上がってきた血液は一気に引いていった。短く息を吐き、手を離す。
くそっ。
禁煙がこんなにキツいものなら、煙草なんて吸うんじゃなかったぜ。
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