短編小説・ショートショート【極楽堂】

home > novel > 071-080 > 恋人未満?

恋人未満?

「はあぁ……」
 聞こえよがしにため息をつく暑苦しい体型の男。それを尻目にもううんざりだと顔をしている細めの男。ふたりは昔からの連れである。まったく正反対といってもいい外見だが、逆にそれがよかったのか、関係は良好である。
「なんだよ、またため息なんてつきやがって」
 苛立ちを隠そうともせず、細めの男が言う。
「だってさぁ、はあぁ」
「ったく、うぜえな」
「うざいとはなんだよぅ」
「だいたいお前は見た目だけでもウザイランキング上位なんだよ」
「な、なんだよ。ウザイランキングって」
「おれが今考えたの」
 太目の男は何かを言おうとしたが、いい言葉が浮かばなかったのか、口をパクパクさせている。なんとも間抜けな光景である。
「もうあの女とは会ってないんだろ?」
「あの女とか言うなよぉ」
「だって名前わからんし」
「あ、アケミさんだよ」
「ベタだな」
「ベタって! 人の名前にケチつけるなよぅ」
「どうせ源氏名だろ」
 またもや太目の男は言葉につまる。まるで休憩しているかのように男の言葉は頻繁に立ち止まった。
「なんだよ、偉そうに。そういうユウキはどうなんだよぉ?」
「は、おれ? おれは別にそういうのはないよ」
「嘘つくなよ。いつも友だちとそういう話してるみたいじゃないかぁ」
「いつ、誰と?」
「そんなこといいんだよ。えーとなんだっけメグとかなんとか」
「ああ。あいつはそんなんじゃねえよ」
「アイツハソンナンジャネエヨ。うらやましいねえ。ぼくも言ってみたいよぅ」
「ったくそんなんじゃねえって」
「一緒に住んでるんだろ」
「そりゃまあ、うん」
「一緒に住んでるのに、そんなんじゃないわけないじゃん!」
「だってなお前、おれがいないとたぶんあいつは生きていけないわけだし」
「うへえ、そこまで言うの? くそぅ。やっぱかわいいんだろ?」
「かわいい? どうかな、よくわかんねえよ」
「くそーっ」
 太目の男が悔しそうに歯軋りをすると、細めの男は顔をゆがめた。誰が聞いても気分のいいものではない。隣の席に座っていたOL風の女性もちらりと振り返ったほどだった。
「おいおい、マサルやめろって。みっともないから」
「うるさい、お前におれの気持ちが分かってたまるか」
「だってなあ、メグっていうのはウチの犬だぞ」
「へ? 犬?」
 そういうとマサルは呆けたようにユウキを見つめた。ユウキは眉をクイッとあげ、頷いた。
「な、なあんだ。犬なのかぁ。そうかそうかぁ」
「そうだよ」
「ホントだよね?」
 マサルがそう聞くと、ユウキはいたずらっ子のような表情を浮かべ、
「ウソ」
 と言った。
 呆気にとられたマサルの顔は、しばらく時を失ってしまったのだった。
home | novel | bbs | link

<< 071-080

© gokurakuten since 2001