短編小説・ショートショート【極楽堂】

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恋人未満

「やっぱ女って金かかるよなぁ」
 マサルからそんな言葉が出るとは思わなかったので、ユウキは思わず含んでいたコーヒーを吐き出しそうになった。ゴフッとなり、二度三度むせる。
「は? お前、マジか?」
 常に汗をかいているような暑苦しい体型。ボサボサでセットされることのない髪。おせじにもセンスがいいとはいえない服装(バンダナ含む)。
「こんなにいいものだとは思わなかったよぅ」
 にやりとした顔に、長年の連れであるユウキでさえ、ゾッとさせられた。
 こんな男に彼女?
「なにお前。家に呼んだりしてるの?」
「いや、おれがいつもあっちに行ってるんだ」
「どっか遊びに行ったりとか?」
「それもほとんどない」
「いつも家かよ」
 家でまったりするのが好き、とかいうやつか。こんなのと始終家にいたら、発狂してもおかしくないのでは。まず部屋の湿度が何度か上がるのは間違いない。
「そしたら何で金かかるわけ?」
「だってプレゼントとかいろいろ買うし」
「プレゼントぉ?」
「そうだよ」
「そんなしょっちゅうやるもんではないだろう」
「あれ、そうなの? だいたい会うときは持ってくんだけど」
 意味もなくプレゼントされたら、たいがい引くと思うが。
「彼女、とってもカワイイんだぜぇ」
 でへへと気味悪く笑いながらマサルが話す。あまりの気持ち悪さにユウキは思わずぶんなぐりそうになった。というか、ぶんなぐった。マサルは「なにすんだよぅ」と言って頭を押さえた。
「妬いてるのか?」
「おれが? お前に? また殴るぞ」
「冗談だよぅ」
 大げさに身をかばうその動作も、見ていて虫唾が走るほどだった。殴るのさえもばかばかしく思え、ユウキは大きくため息をついた。
「彼女さあ、毎日会いに来てって言うんだよ」
「毎日?」
 そんなことが本当にありうるのだろうか。もしかすると、いわゆるD専というやつだろうか。
 いろんな思いが頭を駆け巡り、ある予想がユウキの脳裏にひらめく。
 今までの会話の内容からいって、その可能性は決して低くない。
「なあ、マサル。一度その子に会わせろや」
「ええ、やだよう」
「なんで」
「だって彼女はおれだけのものだもん」
「別に会うくらいいいだろうが」
「やだよう」
 マサルの反応を見て、ユウキは確信を強めた。
 恐らくこの考えで、間違いないはず。
「マサル。酷なこと言うようだが、お前騙されてるぞ」
「ええっ。そんなことないよう。だって会うたび好きって言ってくれるしぃ」
「んなもん、どうでも言えるわ」
「毎日でも会いに来てって」
「それはさっき聞いた」
「だったら騙されてるわけないじゃないかぁ」
 力なくユウキは首を振った。
「これだから経験のないやつは困る」
 口を結んでマサルはうつむいた。さすがの彼もどこかでその可能性を考えていたのかもしれない。
「友だちだから言うんだぞ、マサル」
「なんだよぅ」
「いいか、その店にはもう行くな」
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