短編小説・ショートショート【極楽堂】

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リセット

「だから母さん言ったでしょ、ちゃんと世話できるのって」
「うるさいなぁ、何回も言わなくても分かってるよ」
「分かってないから言ってるんじゃない! これで何回目だと思ってるの?」
 ぼくは口をつぐんだ。もう母さんの言うことには飽き飽きしている。こっちだってしたくて失敗してるわけではない。
「ご飯も全然やってないし。トイレの世話もできてないじゃない」
 振り返ってみるとまったく母さんの言う通りで、それがまた癪に障る。最初の方こそめずらしがって、世話をしていたものの、だんだんと面倒くさくなり、放っておくままにしていた。最近聞かれるようになったネグレクトってやつか。
 約束通り母さんはすべての世話をぼくにまかせ、それがこんな結果を招いてしまった。
 後悔の念が浮かぶ。だが恐らくこれも、一時の感情に過ぎないのだろうが。こういう思いは一度や二度ではない。いくつもの命をぼくは放置という方法で手にかけている。
「もうこれで最後にしなさいよ。かわいそうだと思わないの?」
「母さんには関係ないだろ」
「関係ないことないでしょ。だいたいあなた」
 繰り返される説教から逃れるように、ぼくは自分の部屋に戻った。
 部屋には動かなくなった命の残骸があった。近寄りその姿を見下ろす。生前はあんなに元気に動いていたのに今はピクリともしない。命とはなんと果敢ないものなのだろうか。
「やってしまったものはしょうがない。リセットリセット」
 そう言ってぼくは心を切り替える。いつも通りの命のリセット。
 また新しいのを探してこなきゃ。
 それからぼくは夜の街に消えていった。
 新しい命を求めて。
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