短編小説・ショートショート【極楽堂】

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サドンアタック

 何回もシュミレーションしたし、うん、ゼッタイ大丈夫。
 きっとうまくいくハズ。
 心臓がとびだしそうなほど、バクバク高鳴る。
 緊張のあまり身体全体がホテッてくる。
 もうすぐあの角を彼が通るはず。
 計算ではあと二分。
 腕時計の針がとても遅く感じる。
 右手に持っていたものを左手に持ち替え、手ににじんだ汗をスカートでぬぐう。
 想像以上にびっしょりの手のひらをゴシゴシぬぐい、再び持ち直す。
 これがないとダメなのだ。
 早く彼が来ないかなと思ってると、角に人影が現れた。
 彼だ。
 心臓はこれ以上無理というくらい早くビートをキザむ。
 早く、行かなきゃ!
 アドレナリンでまくりの身体に走ることを指令する。
 近くにいたから、すぐに彼の前までたどりつく。
「あ、あの」
 まともに彼の顔を見ることができない。
「なに?」
 落ち着いた低い声が頭の上を過ぎる。
 がんばれ、自分。
 最後までしっかりやらなきゃ!
 後ろに隠し持ったモノをなかなかだすことができない。
 どこかでためらう自分がいる。
 こんなことをしたらきっと彼は驚くに違いない。
 知らない女の子にこんなことされたら……。
 ちらっと彼の方を見上げると、不思議そうな顔でわたしを見ている。
 その眼差しに耐えられなくなり、わたしは思いっきり彼の身体にぶつかり
「ご、ごめんなさい」
 と言って立ち去った。
 その瞬間彼は目を見開き、とても驚いた表情を見せた。
 けれどもわたしは何も言わずただただ走った。
 彼に追いつかれないように。
 だってこの手には、真っ赤に染まった包丁がにぎられているから。
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