短編小説・ショートショート【極楽堂】

冷却贖罪

　天国から地獄へ。
　ぬるま湯につかりきっていた俺は、強制的に凍てつくような流れに身を打たれた。
　すべての細胞が驚きを隠せないまま、血液はこれでもかというくらいに血管の中を激しく暴れまわった。
　贖罪なのか？
　冷たくなっていく身体に対し、思考はどんどん澄み切っていく。
　彼女にしたことを思えば、これが俺に与えられた罰といえなくともない。
　意識的にせよ、無意識にせよ、彼女のか細い手は、俺の命を剥き出しの状態にした。
　もろくはかない命が、冷たい流れの中にさらされる。
　だんだん感覚がなくなっていく。
　手がかじかみ、震えを帯びる。
　このままおとなしく受け入れるべきなのだろうか。
　そうすれば彼女の気もいくらか晴れるのかもしれない。
　目を閉じ、しばし思いをめぐらせる。
　彼女はあのとき激昂して泣いていた。
　その涙の元は間違いなく俺なのだ。
　頭では罪の意識を感じていても、身体は断固としてこの状況をぬけだしたがった。
　ここで命を落とすのは馬鹿らしい。
　やはり俺は、生きたい。
　意を決し、ゆっくりと立ち上がる。
　冷え切った身体に活を入れ、しっかりと閉ざされた扉を開く。
　冷たかった空気の中に、暖かい空気がゆっくりと入り込んでくる。
　懇願する思いで俺は叫んだ。
「おねえちゃん！　ケーキ食べたのは悪かったから、シャワーのお湯でるように早く戻して！」