短編小説・ショートショート【極楽堂】
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口の禍の元
ん?あれ?
おかしいな。
なんだなんだ。
んーーーーーっ。
あらら、口が開かないぞ。
ん? もしかして、これって……。
あちゃー、リップと間違って、接着剤ぬっちゃった。
こんな馬鹿なことをしでかすとは。
ちょっと面白いな。
いや、そんな場合じゃないわ、なんとかしないと。
よいしょっ。
って言っても、実際は声はでないんだけど。
ありゃりゃ。全然開く気配がないぞ。こりゃやばいな。
あら、もうこんなに硬くなってるのか。手でこすっても痛いだけだな。
水で濡らしてみたらどうだろ。
ひゃ。今日は冷えるな。手をつけるだけで凍りそうだ。
むむむ。全然変わる気配がない。
なになに。
このクッツクンZは完全防水です、だと?
ちっ、余計なことしやがって。
んーーっ。
いてて、こりゃ思いっきりやったら唇が裂けそうだな。
そういや鼎に頭を突っ込んでぬけなくなって、耳がとれた先人もいたな。
ちょっと違うか、それは。
さて、どうしたもんかな。ちょっと焦ってきたぞ。病院かな、こりゃ。でもこんなんで病院行ったら、お医者さんも笑いを堪えるの大変だろうな。それに看護婦さんたちの絶好の話題にもなりそうだ。
んー、ちょっと考えものだな。
やっぱり自分でなんとかしよう。
一五年のわが人生で最大の危機だな。
これほどまでの危機は、うんこもらしそうになった小二の夏以来だ。
あんときは身体中が熱くなって嫌な汗がでたっけな。
まぁ、結局はもらしたんだけど。
さて、どういう手段で今回は乗り切ろうか。
カッターとかで切り開くのは?
ひぇ〜〜。考えただけでも無理。怖すぎ。かさぶたはがすのだって怖いのに。
あ〜、もうなんでこんなことになったんだろ。
日ごろはいいことばっかりしてるのに。
空き缶だってゴミ箱に捨ててるし、電車の中ではケータイもマナーモードにしてるし、髪だって真っ黒だし、電車でおばあさんが立っていたら代わってあげたいと思ってるし。これって、世の中の大半の人よりマシなはずだ。うん。間違いない。
なのに何でこんな仕打ちを受けなきゃないんだ。
あ〜、世の中は不公平だ。
神にイキドオリを感じる。あら、イキドオリってどんな字だっけ。
そんなこと考えてる場合じゃないんだ。
早くなんとかしないと。
このままじゃディープなキスもできないぜ。
まだキス自体したことないけどさ。
やっぱりレモンの味なのかしらぁ。
にしても、三組のヨシダはなんであんなもてるんだろ。あんなのただのひょろ長いだけじゃん。キリンみたいな顔しやがって。くそっ、本当にミヤウチさんとやっちゃったのかな。あー、去年からずっと思ってたのに。このオモイは報われないのね。しどい。
だめだだめだ。
余計なことばかり考えちゃう。
まずはこの事態を何とか変えないと。
よしとりあえず、心を落ち着かせよう。
深呼吸。
すう〜〜。はぁ〜〜。
あれ落ち着いてきたらなんだか眠くなってきたぞ。
昨日四時までオンラインで遊んでたし。
今月も電話代やばいだろうなぁ。
あ〜、もういいや。
起きたらまた考えよ。
メンドイ。
オヤスミ。
ん。
あれ。
今何時だ。
口は……やっぱり動かないか。
あら。
なんかでもさっきと感覚が違うな。
って、ここどこだ?
「おや、ようやくお目覚めか」
あなた、誰?
「口はふさがせてもらったぜ。騒がれるとうるさいからな」
ふさいだ?
あ、ガムテープじゃん、これ。
なんだぁ。接着剤じゃなくてよかった。
ほっ。
「お前があそこの製薬会社の息子だってことは分かってる。さぁ家の電話番号を教えてくれ」
って、ほっとしてる場合じゃないっつの!
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