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因果応報の業

 神が慈悲をかけてくれるとは思えなかった。
 命を奪いすぎた。
 薄れゆく意識の中で、彼は思った。
 獲物を求め、こんな山奥まで来たのが失敗だった。人に見つからないという利は、今彼にとって逆に働いていた。こんなところに人は来るまい。現に誰ともすれ違うこともなかったのだ。
 彼に手をかけた相手は、もうとっくに姿を消していた。今まで殺めてきた連中の同胞なのかもしれない。積もりに積もった恨みが、今晴らされたということか。
 だが、彼を殺したところで、彼らの命が元に戻るわけではない。今このときも、彼の薄暗い部屋には累々と屍が並べられている。薬品を投与され、まるで生きているかの様相だが、その目に光はない。
 冷たくも綺麗なオブジェ。
 それが彼のコレクションであった。その美しきものたちは、彼の欲求を満たすためだけに、次々と命を奪われていった。断末魔をあげることもなく、静かに、ゆっくりと命の灯火を消していく姿は、彼をある種の興奮状態に陥らせた。そして、次の活動へのモチベーションとなった。
 そうやって何度も殺めてきたのだ。
 もうだめだ。
 視界がぼんやりとしてくる。
 毒が全身に回り、指一本さえ、動かせない。
 瞳も、開けていることが難しい。
 ここまでか。
 こうして、彼の昆虫採集家としての生命は、自分が今まで殺めてきた昆虫の手によって、幕を下ろされたのであった。
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