短編小説・ショートショート【極楽堂】

home > novel > 041-050 > プレゼント

プレゼント

「そんなん買ってやればいいじゃんか」
 黒いニット帽をかぶり、切れ長の目の男が、切って捨てるように言葉を投げた。それに対し、銀縁の眼鏡をかけた真面目そうな青年は、う〜んと首を捻った。
「そういうけどね。ああ。まぁ、確かにそうなんだけど」
 分かってはいるんだけど、どうもすんなりと受け止めることができない。そういった様子である。切れ長の目の男は、グラスをあおり、ウィスキーを流し込んでから、大きく息を吐いた。それから、眼鏡の青年の背中をバンバンと叩いた。
「絶対喜ぶって」
 眼鏡の青年はまだ渋っている様子である。どうしても踏ん切りがつかないらしい。
「だってさ、俺たち付き合ってるわけじゃないんだよ?」
 そういうと眼鏡の青年は、視線を切れ長の目の男に向けた。分かってないな、といった感じで、切れ長の方が首を振る。
「付き合ってるとか、ないとか、そんなことは関係ないの。欲しいって言ってたら、買ってやる。それがイイ男ってもんよ」
「それはちょっと偏ってないか?」
「そういうもんなの! ポンと買ってやれば、見る目だって変わると思うぜ」
「そういうもんかなぁ」
 眼鏡の青年は腕組みをし、再び首を捻った。
「いいから買ってやれって。絶対喜ぶから」
 空になったグラスの氷を玩びながら、切れ長の男は言葉を続ける。
「キャミソールくらい普通だって」
「確かにそれはそうだよ、でも」
「でも、とかそういうのはいいから。とにかく買って、あいつに渡してやれよ」
「ああ」
「好きなんだろ? あいつのこと」
「……わかんないよ」
「俺には隠さなくたっていいよ」
「ホントわかんないんだ。こういう気持ちって初めてだし」
「かあぁ、若いっていいねぇ。青春だな、こりゃ」
「からかうなって」
 バツが悪そうな顔をして、眼鏡の青年は視線をそらした。
「あいつ、やせてるから、絶対似合うと思うよ」
「そうかなぁ」
「俺が保証する。だから買いたまえ。ほら、買うんだ。買え買えー」
「今買うわけじゃないだろ」
 そう言って眼鏡の青年は軽く笑った。二人とも、ほどよく酔ったところで、会はお開きとなった。二人は中学のときからの同級生で、お互いさまざまなことを相談しあい、何でも話せる間柄だった。いわゆる親友と呼ばれる関係なのかもしれない。
 翌朝、眼鏡の青年は言われたとおり、ライトブルーのキャミソールを買った。
「これ、欲しがってたろ」
「え?」
 眼鏡の青年は真っ直ぐに相手を見つめることが出来ず、地面に向かって会話をしていた。
「開けてみろよ」
「あ……」
「センス悪いかな?」
「そんなことないよ。すごく可愛い。いいの、本当に?」
「喜んでくれればそれで十分」
「ありがと」
 そう言うと細身の男は自分にキャミソールを合わせた。
「似合うかな?」
 眼鏡の青年はやさしく微笑み、ゆっくりと頷いた。
home | novel | bbs | link

<< 041-050

© gokurakuten since 2001