短編小説・ショートショート【極楽堂】
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静寂を取り戻せ
交渉は決裂。こちらが平和的に解決しようとしているのに、やつらはそれに耳を貸そうともしない。所詮は、野蛮民族、言語で解決しようというのは不可能なのだろう。こちらとしてもこのまま黙っているわけにはいかない。泣き寝入りするには怒りが強すぎる。
力には力を。
あくまでも戦おう。
隣に静かにたたずむ細長い銃器。何も言わずとも大きな重圧を周囲にまき散らかしている。掌には、いくら拭っても、次から次へと汗がにじむ。さすがに緊張しているようだ。再びズボンで手を拭い、ずっしりと重い、黒く細長い金属を手にする。ひやりとした感触が心地よいが、ますますと緊張を増長させた。
大きく息を吐き、ゆっくりと窓から辺りをうかがう。暗闇が一帯を支配し、ポツポツと見える電灯がいかにも頼りなさそうに、その存在を示している。しんと静まり返った町並みは、集中力を高めるにはぴったりだった。
失敗することを考えてはならない。
あくまで正確に、確実に。
そして、静寂を切り裂くようにして、やつらがやってきた。
再び緊張が走る。身体全体が熱を帯び、若干呼吸も荒くなる。
無意味に爆音を巻き散らかす様子は、自己の顕示と周囲への威圧を意味しているのだろう。
他人を不愉快にさせるだけの行為、許すわけにはいかぬ。
わずかに開けた窓から、細い銃口を外へ向ける。
サーチスコープから外を見ると、派手な格好をしたやつらの姿が確認できた。
心の底からその行為を楽しんでいる様子は、俺をますます不愉快にさせるに十分だった。もうこのままのさばらせるわけにはいかない。
身体から熱が引いていく。
頭は冴え渡っていき、集中力が最大まで高まっていくのがわかる。
ぐっと息を止め、狙いをさだめ、トリガーを引いた。
小さな口から発せられた弾は、見事に一人の頭に当たり、乗っていたバイクから転げ落ちた。乗り手を失ったバイクはスピンを繰り返して、電柱に突っ込んだ。周りの仲間たちは、そいつが転んだと思い、それぞれバイクを止め、助けに駆け寄った。こんな暴走行為を繰り返しているやつらにも仲間の安否を気遣う心はあるということか。その様子が滑稽に思え、俺は再びトリガーを引く。駆け寄ってきた一人が足を抑え、その場にうずくまった。何が起こったか分からないといった様子で、一気にやつらはパニックに陥った。慌てふためくやつらの姿を見て、俺は思わずぷっと吹き出した。ついでにもう一発弾を見舞ってやる。うなずくように、一人の首が前に折れた。あまり派手にやってはこっちのことがばれてしまうと思い、俺は銃口をしまい、ゆっくりと窓を閉めた。やつらは何が起こったか分からないといった感じで、ひとしきり騒いでいた。その様子を不審に思ったのか、何人かの家に明かりが点いた。
今日のところはこれで暴走行為も収まることだろう。
それにしてもモデルガンというのはずいぶん威力があるものだ。
隣に置いた相棒を見ながらつくづくそう思う。
やつらと戦うには十分過ぎる武器である。
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