短編小説・ショートショート【極楽堂】

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悪魔が降りるそのときまで

 辺りが急に明るくなり、視界が真っ白になる。
 もうこんな時間か。
 自由に移動することもできない四角いゲージの中で、諦めにも似た感情が、どっと襲ってくる。
 このままずっとここにいるのと、無理やり外に引きずり出されるのでは、どちらがマシだろう。
 ぼんやりと考えてはみるが、その選択肢は自分では選ぶことはできない。
 どっちを選んだとしても、幸せではない。
 それだけが確かなことだ。
 周りの皆は、とっくに感情を失っている。
 こんなところに長い間入れられていれば、当たり前のことだが。
 辺りがざわつく。
 気配を感じ、上を見上げる。
 来た。
 悪魔の手が視界の隅に映る。
 いつものことだが、緊張が走る。
 手は、なめ回すように旋回し、標的を決めると、圧倒的な恐怖を伴って降りてくる。
 幸い、おれの場所からは遠い。
 今回は捕まることなく済みそうだ。
 捕まったやつには悪いが、おれにとってはラッキーだった。
 などと、ホッとしている間もなく、今度はちょうどおれの真ん前で、手が止まった。
 どうやら来るときが来たようだ。
 覚悟を決める。
 その覚悟を見取ったように、手は下りてくる。
 どんどん、どんどん。
 ゆっくりと。
 無機質な冷たい爪が頭を掴む。
 そこに慈悲や温かさは感じられない。
 がっちりと側頭部を固定され、持ち上げられる。
 頭が引っこ抜かれそうだ。
 おれの身体は慎重に持ち上げられ、やつらの巣らしき穴へ、運ばれていく。
 もはやここまでか。
 そう諦めた瞬間、爪の力が緩んだ。
 何が起こったか分からなかったが、今いるところが巣ではないということは間違いない。
 仲間の頭の上に落ちたのだ。
 やつも油断したのかもしれない。
 仲間たちは、おれの帰還を喜んでくれているようだ。
 さっきまでは、どうでもいいやと思っていたおれも、助かったと分かるとうれしかった。
 しかし、全てが終わったわけではないのだ。
 悪魔の爪は、再びおれの頭を掴むだろう。
 せめてそのときが、少しでも遅くなるように、信じてもいない神に祈った。

「お前、本当に人形とるの下手だね〜」
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