短編小説・ショートショート【極楽堂】

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勝負の真相

 目の前に見たこともないような大金を提示され、一瞬呼吸をするのも忘れてしまった。
「これで、どうにかならないかね」
 射るような視線で、わたしは萎縮してしまう。思わず、すっと視線をそらす。全身がカッと熱くなり、心臓は高鳴る。相手にもその鼓動が伝わるのではないか、と思うくらいだ。
 再び目を向けると、彼は黙ってわたしを見据え、返事を待っている。
 どうしようか……。
 家ではお腹を空かせた子どもたちが、わたしの帰りを待ちわびているだろう。
 それを考えると、自ずと首はゆっくりと縦に倒れた。
「イエスと受け取っていいんだね」
 一言一言を噛んで含めるような確認の言葉。
 消え入りそうな声で「はい」というのが精一杯だった。
 地位や名誉はもちろん欲しい。
 しかし、食べるものがなくては、生きてはいけないのだ。
 背に腹は変えられぬ。
 そう自分に言い聞かせてみても、心の奥で執拗に責め立てる自分がいた。
 しょうがない。
 しょうがないのだ。


 晴れ渡った空の下、みんなの歓声の中でウサギと亀が、かけっこで競争をしました。
 亀に大差をつけたウサギは、途中で一眠りしてしまいました。
 そして、寝ているウサギを追い越し、亀が先にゴールしました。
 みんなに讃えられ喜んでいる亀の横で、ウサギは悔しくて、しくしくと泣きました。
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