キミが人狼 3

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キミが人狼1  キミが人狼2

「泉さーん」
メグが手を挙げた。
「はい?」
「えーと、予言者って」
「ひとりですね」泉がちょっと意地悪そうな笑みを浮かべながら答えた。
内心面白くなってきたと思っているに違いない。
みんなが翔と将軍の顔を見比べる。
翔は不安げにうつむき、将軍は不適な笑みを浮かべている。
周りがざわつき始める。
「面白い」
将軍は「おほん」と、また咳払いをした。
「予言者はひとり、しかし名乗り出たのはふたり。つまりどちらかが偽物ということになります。わたくしと彼、どちらかが嘘をついて、みなさんをだまそうとしている。すなわちそれは、どちらかが狡猾な狼男であることを表しています」
まるで演説のように語り始めた将軍に、みんなが耳を傾ける。
彼の声はその外見と異なり、非常に聞きやすい。
翔は不安げに将軍を見つめ、とーちゃんはそんな翔と将軍を交互に見比べている。
「ふむ。困った。わたくしがここで何かを言えば言うほど、みなさんの目には怪しく映るかもしれませんな。はてさて、どうやって身の潔白を証明すればよいか」
将軍は芝居がかった様子で両手をあげ、天を仰いだ。
「はーい。しつもーん」
そこでメグが手を挙げた。
「ねえねえ、翔くん。キミは誰の正体を見たの?」
あ。
確かにそれはまだ聞いてなかった。
タケヤマが「うん。それは重要だ」と言いながら何度もうなずいている。アダムは事態があまり飲み込めていないようで、きょろきょろとみんなの顔をうかがっている。この人、ほんと大丈夫かな。
「えと、ボクは」
もじもじしながら翔はメグを指さした。
「メグさんを見ました。それで」
翔は自分の前に両手でWを作った。
「こういう判定でした」
Wはすなわち、WEREWOLF、人狼と言うことだ。
だが、村人の一員であるライカンもまた、正体は人狼と判定されてしまう。
そして、メグはあらかじめ自分がライカンだと言っている。
ならばWと判定されても別段おかしくなはい。
「うん。確かにキミの目にあたしは人狼と映ったと思う。さっきも言った通りあたしライカンだしね」
隣にいるメグが「そうそう」と言いながら何度もうなずく。
「あの、でも」
刹那が肩を縮こまらせながら、申し訳なさそうに手を挙げた。
「メグさんが人狼という可能性もありませんか?」
そうなのだ。
その可能性は決してゼロではない。
Wと判断されたということは、少なくとも彼女はただの村人ではないのだ。
「は? あんた何言ってるの?」
食ってかかったのはルミである。
「メグはライカンだって言ってたじゃん。だから、人狼って判定だったんでしょ」
「いや、でも。あの。その」
「あ? なに?」
「えと、なんでもないです」
ルミの勢いに負け、刹那はしゅんとなって黙ってしまった。
彼の言うことはもっともである。
もしメグが人狼だった場合、彼女はライカンという免罪符を手にし、ゆっくりと夜に村人を襲うことができる。
だが、その場合、わざわざ自分がライカンだということを最初から白状するだろうか。
とりあえず黙っておいて、予言者に自分の正体が見られたときに初めて、実はライカンだと言えばいいのではないか。
あらかじめ自分の正体がライカンだと言ってしまうのはそれなりのリスクがある。
いらぬ注目を浴びることは誰であれ、避けたいところだろう。
だが、それを逆手にとれば……
考えれば考えるほど混乱してくる。
「そうだね。確かにあたしが人狼だという可能性もあると思う」
「え? ちょっとメグ」
「いいの。ルミ。これはあくまでも可能性の問題」
興奮しているルミを諭すようにメグが語り出す。
「あたしはさっきも言った通りライカンです。なので、予言者の目には人狼と映りました。だから疑われるのも当然のことです。さっきの刹那くん発言はもっともだと思います」
視線を向けられた刹那は申し訳なさそうに軽く頭を下げた。
「確かに」とタケヤマが相づちをうつ。
ルミは納得いかないようで、口をとがらせている。
「このゲームは村人と人狼のゲームです。なので、たとえ犠牲者が出たとしても、村人側の誰かが勝てばチーム全員の勝利となります。そうですねよ」
「ですね」と泉がうなずきながら答える。
「実際、1人も犠牲者を出さないで村人が勝つことは不可能です。人狼は2人いるので、たとえここで1人をリンチにかけたとしても、夜に、もう片方の人狼によって、誰かが襲われることは確定しています」
「あー」
確かにそうだ。
説明されて気づいたが、無傷で勝つことは無理なのだ。
1回でリンチにかけられるのは1人で、どうやったって1日で2人の人狼を撃退することは不可能だ。
つまり、必ず犠牲者はでる。
だが、それで脱落したとしてもチームが勝ちさえすれば、自分も勝ったことになる。
「ライカンのあたしが疑われるのは仕方ないと思います。村人の立場を考えれば、人狼と判断された人が一緒に残っているのは気持ちがいいものではないですしね」
「えー、なんでー」
「もう。だから今その理由を言ったでしょ」
「だってメグ、ライカンなんでしょ?」
「それはそうだけど。そんなこと言い出したら、このゲーム自体が成立しないでしょう」
だだっこをあやすようにメグがルミをなだめる。
「村人が勝つにはどうしても犠牲が必要です。それで勝つことができるなら、今回あたしが選ばれることに異論はありません」
「むう」
ルミはまだ納得がいってないようだ。
それはそうだ。
もしメグが本当にライカンだとすると、自らの手で味方を裁くことになる。
「えーと、それでは」
タケヤマが数回手をたたき、注意を引く。
「今回はメグさんに投票するということでいいですか?」
「かまいません」
「いい、と思います」
「仕方ないですね」
みんなの様子をうかがうと、だいたいが肯定意見のようだ。
ヒントがまだあまりない状態の今、この選択はある意味順当なのかもしれない。
「泉さん」
タケヤマが泉の方を振り返ると、もう彼は投票用紙とボールペンを配り始めていた。
「さてさて、1日目はスムーズに進んだようですね。それでは改めてリンチにかける人を選ぶ方法を説明します。今、みなさんの手元には何も書かれていない紙が配られています。そこに今回自分が選んだ人の名前を書いてください。自分の名前は書かなくて結構です。もし1位が同票の場合、今度はそのふたり、またはもっと多数ということもあるかもしれませんが、その人たちに限定した決選投票を行います。そして残念ながら選ばれた人はリンチにかけられゲームから脱落することになります。その人の役割がなんだったかはわたしが確認し、正体が人狼か、そうでなかったかだけをみなさんにお知らせします。ただし、先にも述べていたように、ライカンの正体は人狼と判断されます。ここまでで、なにか質問はありますか?」
「大丈夫です」
「ないです」
「あと、これも改めての確認なのですが、ゲームから脱落した人は、生き残っている人に対し、何も発言できません。もし、何か分かったとしても黙っていてくださいね」
「わかりました」
「はい。では、みなさん。今回選ぶ人の名前を記入してください」
さて。
この流れだと大方の投票はメグに流れそうだ。
ぼくもそれにならって大丈夫かな。
うーん。いくらゲームと言っても、リンチにかける人を選ぶというのは気持ちがいいものではない。
かといって、選ばないことにはゲームにはならない。
「こちらに投票箱を置きますので、書き終わった人はここに入れてくださーい」
泉が座っていたパイプイスに紙製の黒い箱が置いてある。
もちろん上面には細長い長方形の穴がある。
すでに何人かは立ち上がって、投票している。
ルミはちらちらとメグの顔をうかがっており、まだ名前を書いてもいないようだ。
よし。
メグさんにはすまないけど、今回は投票させてもらおう。
白い紙の真ん中に、小さく「メグ」と書いて、ぼくも席を立った。

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キミが人狼 2

20120223113011

キミが人狼 1

「それではみなさん、念のため、もう1度自分の役割を確認してください」
泉に促され、自分のカードを再確認する。
緑の帽子をかぶった青年の絵の上に、VILLAGERと書いてある。
間違いなく村人だ。
「では、みなさん目をつぶってください」
うなずくようにして、首を前に倒し、そのまま目をつぶった。
部屋の中が静寂に包まれる。
「ここはみなさんの住む平和な村です」
静けさをゆっくりと裂くように、泉が語り出す。
声の位置が動いているので、歩きながら話をしているようだ。
「そのみなさんの村に、2匹の人狼が紛れ込んでしまいました。彼らは一見、人の姿をしており、とても獰猛な狼には見えません。しかし夜になるとその本性を現し、村人に襲いかかります。一刻も早く人狼の正体を暴かないと、みなさんの命が危険にさらされます」
泉の声は独特なトーンとテンポで、かなりの臨場感を生み出した。
どこか宗教的な神秘さがある。
何回もこの司会をやっているのだろう。
そういう慣れを感じる。
「それでは人狼の2人、目を開けてお互いを確認してください。ほかの人は、つぶったままでいてくださいね」
もちろんぼくは目を閉じたままだ。
誰が人狼なのか確認したい気持ちはあるが、もちろんそんなことはできない。
「では、目を閉じてください。それではライカン、目を開けてください」
ちょっと間があり、「はい、わかりました」と泉が言う。
なるほど。
泉が歩きながら話しているのは、止まった場所によって、その正体がばれないための配慮なのか。
よく考えてある。
「それでは目を閉じて。では、予言者よ、目を開けてください。さあ、今回誰の正体を知りたいか、指さしてください。なるほど。そうですか。どうぞ。わかりましたか? はい、では目を閉じてください」
ここで予言者が自分をさしてくれれば、とりあえず安全なのだが。
「さあ、みなさん、人狼たちは虎視眈々とあなた方の命を狙っています。それを探し出して撃退できるかどうかはみなさんの手腕にかかっています。それでは、全員目を開けてください!」
ゆっくりと目を開ける。
視界が戻るまで、わずかに時間がかかる。
誰が人狼なのだろう。
ちらちらと辺りをうかがう。
考えはみな同じようで、向こう側の女性と目が合い、慌ててお互い目をそらした。
「それではみなさん。まずは順番に自己紹介をしていきましょう。お名前と、これはもちろん本名じゃなくて結構です。役割を言ってください。もちろん人狼は、自分が人狼と言わないでくださいねー。ゲームにならないので」
ここで軽い笑いが起こる。
さすがにそんなミスをする人はいないと思うが。
「人狼は役割を偽ってください。ちなみに村人が人狼と言うとまっさきに狙われることになりますよ! 以前、そういう方がいたので。というか、それ、偽る意味ないですからー」
小太りの男が鼻で「ふふふ」と笑った。
「えーと、じゃ、一番手前の方から順番にいきましょう。いいですか? あ、あとほとんどの方が初対面だと思うので、軽い自己紹介もしていただけると助かります。すぐに全員の名前を覚えるのは大変だと思うので、ちょっと印象に残るようなものがあるといいかもしれませんね。では、お願いします」
「あ、はい」
男子高校生がちょっと驚いたように身体をびくっとさせた。
こういう設定だと、そういうちょっとした驚きも怪しく見える。
疑心暗鬼の世界だ。
高校生がゆっくりイスから立ち上がる。
「えと、はじめまして。刹那といいます。ちなみに漢字表記で刹那です。えと、人狼は学校で放課後、友だち数人とやったことがあります。あ、高校生です。はい。えと、えと」
「あと役割を言ってくださいね」
「あ、はい。えと、村人です。はい」
刹那はかなり緊張しているようで、「えと」を連発していた。
やせ形で黒フレームのメガネをかけている。
見た感じ、文化系の部活をやっていそうだ。
あまり運動が得意そうには見えない。
「はい、では次の方」
刹那と入れ替わるようにタケヤマが立ち上がる。
「みなさん、はじめまして。タケヤマといいます。ボードゲームはいろいろ遊んでいますが、人狼系は今回がはじめてです。普段はだいたい2~3人で、長時間かかるゲームをしています」
「長時間ってどのくらいですかー?」
急に若い女性が質問をはさんだ。
みんながそちらに視線を向ける。
「あ、質問とかだめでした?」
女性は司会である泉の顔をうかがった。
「いえいえ、全然構いませんよ」
泉がそう答えると、彼女はほっとしたように胸を抑えた。
「そうですねぇ。3時間から5時間くらいでしょうか」
「え! 1つのゲームで?」
「はい」
「すごーい。疲れませんか?」
「え? そりゃ疲れますよ」
タケヤマがそう言って少し笑うと、みんなもつられて笑った。
そんなに長時間かかるゲームとはどんなゲームなのだろうか。
「はは。では、自己紹介を続けますね。いつも決まったメンバーでばかり遊んでいるので、たまには趣向を変えようかなと思い、この会に参加しました。あ、ちなみに役割は村人です。どうぞよろしくお願いします」
軽く頭をさげながら、タケヤマが座る。
年相応の落ち着いた自己紹介だった。
次はぼくの番だ。
緊張する。
「えーと、カヲルです。ヲは、なになにを、の「を」です。渚カヲルのカヲルと言った方が早いかな」
ちらっとみんなの顔をうかがうと、ほとんどの人が飲み込めたようだった。
何人かは微妙な笑みを浮かべているけど。
「ボードゲームは最近始めたばかりで、まだ数個しかやったことはありません。具体的にいうと、カタンとドミニオン、アグリコラくらいです。人狼というのは聞いたことはありますが、やるのははじめてで、ちょっと緊張しています。えーと、よろしくお願いします。あ、村人です」
あぶない、あぶない。
重要なことを言い忘れるところだった。
ちなみにここまでの3人が同じテーブルである。
部屋には長い机2つと、それよりちょっと短い机2つで、長方形が作られている。
長い机には3人ずつが、短い机には2人ずつが掛け、3+3+2+2で10人が座っている。
ちなみに泉はドアの前にパイプイスを置き、そこに腰掛けている。手にはクリップボード持ち、何か書いている。
「みなさん、はじめまして」
気づくと、次の人の自己紹介が始まっていた。
「名前はアダムです。ちなみに隣の彼女とは夫婦です」
あー、カップルだと思っていたが、結婚していたんだな。
確かに年齢的にもおかしくない。ふたりとも20代後半といった感じか。
女性がちらっとアダムの方を見上げた。
「なので、彼女の名前もだいたい見当がつくと思います」
アダムはよく通る声で、はははと笑った。テノール歌手のような声だ。
筋肉質で色黒、短髪で、目がぱっちりしている。
いかにも体育会系な感じで、正直あまり得意なタイプではない。
なんか暑苦しい。
「今回は彼女が参加したいということなので、一緒に来てみました。ちなみにわたしは普段ゲームなどはまったくしません。子どもの頃からずっとサッカーばかりしています。今でも会社が終わってからフットサルをしています。運動はいいですよ。ストレス発散にもなりますし、何より健康にいい。汗をかくのは気持ちがいいものです。それから、おっと、いけないいけない。またしゃべりすぎるところだった。昔からの悪いクセでして」
アダムは恥ずかしそうに頭をかいた。
「わたしも村人です。みなさん協力して人狼を倒しましょう」
勢いよくアダムは手をつきあげたが、それに賛同する人は誰も居なかった。
何人かが「ははは」と乾いた笑いをもらす。
うーん。
いやはや、これはなんとも。
決して悪い人ではないんだろうけど。
隣の奥さんがそんな彼に対し、まったく意に介さない様子で立ち上がる。
こういうのは慣れているのかもしれない。
「はじめまして、みなさん。イヴです。専業主婦をしてます。ゲームはよくパソコンのネットゲームをしています。なので、オンラインでは人狼経験ありです」
「ほー」とか「おー」などと声があがる。
アダムの奥さんのイヴは、彼とは正反対といった外見で、色白で細身、きれいな長い黒髪がなんとも大人の魅力をかもしだしている。語り口も非常に柔らかい。
どうしてあんな男にこんな奥さんが、と思ったのはぼくだけではないだろう。
「どうぞお手柔らかにお願いしますね」
そう言ってにこっとほほえみ、席についた。
思わずちょっと見とれてしまう。
「おほんっ」と咳払いをして、小太りの男が立ち上がった。
視線をイヴさんから彼に変える。
「みなさんご機嫌よう。わたくし、将軍と申します」
「ぷ。将軍だって」と若い女性が声をもらす。
将軍がそちらを一瞥すると、彼女はとっさにうつむいた。
いや、でも将軍という見た目じゃないだろう。
せいぜい小役人といった風貌だ。
小太りでくしゃくしゃの黒髪。緑のチェックのシャツに、下はやけに色が明るいジーンズをはいている。顔にはいくつものニキビの跡も見える。
「わたくし、ボードゲームは軽いものから重いものまでジャンルを問わず、さらにはテレビゲームからオンラインゲームまで、ゲームと名のつくものはなんでも嗜んでいます」
なんとも芝居がかった口調だが、これも彼なりのキャラ付けなのだろう。
それとも普段からこんな感じなのだろうか。
だとしたら周りの人も大変だろうな。
「この人狼のプレイ回数もそろそろ3ケタに届こうというくらいです」
ここでまた「おー」という声があがる。
「なので、わたくしが味方につけば、そちらのチームは必然的に有利になるでしょうね。ゆめゆめ敵チームの方々は油断めされぬように」
そう言ってまた「おほん」と咳払いをする。
確かに彼が味方なら心強そうだ。
人間的にはあまり近寄りたくはないけど。
「さて、わたくしの今回の役割は」
わざとらしく間を取る。
「予言者です」
「おー、ついにでた」
「こりゃ村人有利だねー」
「人狼がんばってー」
と方々から声があがる。
恐らく今、声をあげている中に人狼も潜んでいるのだろう。
たぶん。
ぼくはまた辺りを見回した。
なんとなく誰もが怪しく見える。
そのくらいみんなの振る舞いは自然に見えた。
「そして、今回わたくしが正体を見たのは、彼女です」
将軍は隣の席の女性を指さした。
さされた方は「え? わたし?」と自分で自分のことを指さしている。
「みなさん気になるその正体ですが、彼女は」
またわざとらしく間を取る。
うすうすみんな感じているだろうが、ちょっとめんどい。
「村人でした」
「でしょ! そうなの! ルミ、村人なの! あんた役立つじゃん」
急に大きな声を出されて、将軍は若干腰が引けている。
彼女の正体が村人とわかり、辺りがざわつき始める。
もちろんこれが100パーセント真実とも限らない。
ただ将軍が本当に予言者なら、人狼をかばうような嘘はつかないだろう。
「おほん。なので、彼女は我々の仲間です。ご安心ください。以上」
隣の女性の勢いに飲まれたのか、最初よりも語勢が弱い。
消え入るように言いながら、将軍が座る。
入れ替わるようにして、さっき正体を暴かれた女性が立ち上がる。
「ルミです。今、この人が言ったように、村人です! これで、ルミ、リンチにかけられる心配なし。やった」
いかにも今時の女性といった容貌で、ゆるくパーマを当てた明るい茶髪に、爪にもいろんな色がちりばめられている。メイクもそれなりに濃い。あとブランド名は知らないが、やたらと甘い香水の匂いがする。
ちょっと周りから浮いている感じは否めない。
だが、そんなことはお構いなしのようだ。
「村人のみなさん、がんばりましょー」
ルミは怒濤の自己紹介を終え、ニコニコしたまま席についた。
変わって隣の女性が立ち上がる。
「はじめまして。メグです。今日は隣のルミと一緒に来ました。ちなみに彼女とは高校からのつきあいです」
そこで彼女たちはお互いに目を合わせた。
メグの服装はルミとはだいぶ違い、清潔感ある感じだ。
別にルミが不潔だと言っているわけではないが。
肩にかかるくらいの黒髪を、後ろでしっかりと束ねている。
声もハキハキしていてよく通る。
人前で話す職業なのだろうか。
ちなみにさっきタケヤマに質問したのは、このメグだ。
人見知りしないタイプなのだろう。
「面白そうな会をネットで見つけ、でもひとりで行くのもちょっとなぁと思い、彼女についてきてもらいました。それで、役割なんですが。えーと、うーん。これ、言った方がいいのかな」
彼女がためらっていると「え、メグ、人狼?」とルミが尋ねた。
「ううん。あの、あたし、ライカンです」
「あー、なんだ。じゃあ仲間じゃーん」
「うん。そうなんだけど。これ、黙ってた方がよかったかな」
彼女がライカンだとすると、予言者に正体を見られたときに人狼と映るはず。
ただし、逆にそれを利用し、人狼が自分のことをライカンだと偽る可能性もある。
ライカンだと思われている限り、ひとまず狙われることはなくなるだろう。
そして悠々と夜に人を襲えばいい。
うーん。
……考え出すとキリがなくなりそうだ。
「えと、ライカンですので、あの、将軍さん。頼みますね」
ちらっとメグが将軍の方を見ると、彼は「ふむふむ」といいながらアゴをさすっている。
「そうですね。頭に入れておきましょう」と、偉そうに答えた。
「よろしくお願いします」
軽く頭を下げると、メグは席についた。
なるほど。
これは頭を使うゲームだ、ということが、だんだんと分かってきた。
渡された紙にもあったように、対話型推理ゲームというのも納得だ。
人との会話からヒントの糸口をつかみ、それを元に推理していく。
下手なことを言うと自分が疑われかねないが、かといってずっと黙っていても怪しく思われるだろう。
「えーと、みなさんはじめまして」
パステルブルーのポロシャツに、ベージュのスラックスのおじさんが自己紹介を始める。
いかにも休日のお父さんといった風貌だ。
白髪交じりだが、きちんとセットされた髪に、ちょっと垂れた目が、安心感を与える。一見して優しそうな印象を受ける。
「わたし、えーと、こういう場では何か名前をつけるんですね。あ、本名でもいいのかな」
おじさんは泉の方を振り返る。
「どちらでも結構ですよー」と泉が優しく答える。
「そうですね。息子もいるので、呼びやすいように、とーちゃんにします」
とーちゃんは照れながら、息子を見下ろした。垂れた目がさらに下がる。
男の子はちらっと、とーちゃんの顔を見た。
「わたし、ゲームは小さい頃にファミコンをやっていたくらいで、今では全然していません。今日は息子にどうしてもとせがまれて一緒についてきました。みなさんお優しそうな方ばかりなので安心しました。どうぞ、今日は息子共々よろしくお願いします」
深々とおじぎをして座ろうとするところに、「ちょっと、とーちゃん、役割はー」というメグの声がかかる。
あまりにもタイミングのいい声に、どっと笑いが起こる。
「あ、そうでした。わたしも村人です。みなさんがんばりましょう」
とーちゃんはちょっと顔を赤らめて頭をかいた。
続いて彼の息子が立ち上がる。
こんな大勢の大人を目の前にして、かなり恥ずかしそうだ。
「あ、あの。ボク、翔といいます。飛翔の翔です」
「翔ちゃん、かわいー」とルミが声をかけると、翔は顔を真っ赤にした。
そこでまた笑いが起こる。
部屋の中はかなり和やかな雰囲気だ。
果たして、この中の誰が人狼なのだろう。
今のところまったく見当もつかない。
うーむ。
などと考えていると、次の瞬間、翔が衝撃的な一言を放った。
「あの……。ボク、予言者です」

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キミが人狼 1

20120223120714

扉を開けるともう何人かいるようだった。
公共センターの一室には、長方形に並べられた長机とパイプイスが置かれ、男女さまざまな人たちが座っている。
「やあ、どうもはじめまして」
メガネをかけた快活そうな青年が話しかけてくる。
切れ長で涼しげな目元が印象的だ。
白のシャツに黒の細めのネクタイをしている。
歳は30にいくかいかないかというところだろうか。
「えーと、お名前は?」
「あ、えーと」
「ハンドルネームでかまいませんよ」
「カヲルです」
「あー、カヲルさんですか。なるほどなるほど」
彼は、ぼくの全身をざっと見て、何度かうなずいた。
「わたしは主催者の一人の泉といいます。こういう会に参加されたことは?」
「はじめてです」
「そうですか。じゃぜひ楽しんでいってくださいね。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
軽く頭を下げる。
「とりあえずまだ時間があるので、空いているに座っていてください。あ、あとこれが今から遊ぶゲームの簡単な説明です」
A4の紙を1枚手渡される。
それを持って、奥の席に座った。
「この会ははじめてですか?」
隣の席のおじさんが話しかけてきた。
40歳くらいの柔和な顔をした人で、若干髪が薄い。フレームのないメガネをかけていて、落ち着いた雰囲気がある。低い声がなんとも心地がよい。
「はい。はじめてです」
「そうですか。わたしもそうなんですよ。あ、わたしタケヤマといいます」
「あ、カヲルです」
「今日は何人くらいくるかご存じですか?」
「あ、え? ちょっとわかんないです」
「そうですか。イスの数からすると10人前後でしょうかね」
「そうですね」
「ふふ。楽しみだな」
タケヤマはルールの紙に目を落とした。
ぼくもつられるようにして、さっきもらった紙を見る。

・対話型推理ゲーム「究極の人狼」
このゲームは「村人チーム」と「人狼チーム」が対戦するゲームです。
村人チームには人狼が誰なのかわかりません。
なんとかして人狼を探し出してリンチにかけないと、毎晩ひとりずつ村人が襲われてしまいます。
人狼は自分が人狼だということをばれないように、細心の注意を払わなければなりません。
村人と人狼。
果たして勝つのはどちらでしょうか?

てっきりボードやカードを使うゲームだと思っていたのだが、どうやら今回のゲームは、人と人との話合いで行われるようだ。
対話型推理か。
どんな感じなのだろう。
あんまり話すのは得意じゃないんだよなぁ。
紙をテーブルに置き、辺りを見回してみる。
さっきの泉を合わせると、現段階で部屋には9人がいた。
若い女性の2人組、高校生くらいの男の子、いかにもオタクっぽい小太りの男、30代手前くらいのカップル、あとはさっき挨拶したタケヤマ、それから泉だ。
席はあと2つ空いている。
「えーと、そろそろ時間なんですが。んー、まだ来られませんね。どうしようかな」
泉がそう言ったところでちょうどドアが開いた。
「遅れました、すみません」
開口一番、入ってきた男が頭を下げる。
隣には小学生くらいの男の子が立っている。
「あー、よかったよかった。今からはじめるところですので、どうぞ座ってください」
そう言って泉は紙を2枚手渡した。
「はいっ。すみません。ほら、翔、そこ座って」
親子なのかな。
せかすようにして男は子どもを席につかせた。
男の子はちょっと緊張した面持ちで黙ってイスに腰かけた。
「えー、みなさんそろいましたようなので、説明をはじめたいと思います」
泉が今までよりちょっと声をはって、注意を呼びかける。おしゃべりが止み、みんなが彼を見る。
「本日はこのゲーム会にお集りいただきありがとうございます。今日は10人もの人がいらっしゃるということで、何をしようかなと考えたのですが、せっかくなのでみんなで一緒にできるものをしようと考えました。これから遊ぶゲームは、いわゆる人狼系と言われるものの1つ、究極の人狼です。あ、ちなみに人狼系のゲームやったことがある人、手を挙げてください」
小太りの男、男子高校生、そして後から来た男の子が手を挙げた。
「お、君も経験者か。これは油断ならないな」
泉がニコニコしながら男の子に話しかけると、彼は恥ずかしそうにうつむいた。
「それではルールを説明させていただきます。これからみなさんには役割カードが配られます。これは非公開になりますので、他の人に見られないようにしてください。今回使う役割は、人狼が2枚、予言者1枚、ライカン1枚、村人が6枚です。あー、実際にもうカード配ってしまった方がいいかな」
プラスチックケースから数枚のカードを取り出し、枚数を確認すると、泉はテーブルを回り、ひとりひとりにカードを裏にして配り始めた。そこには恐ろしげな狼の顔のアップが描かれている。
「カードを見て、自分の役割を確認してください。でも、何も言わないでくださいね。それがヒントになるので。表記は英語ですが、これから全部説明するので、気にしないでください」
カードを受け取り、確認すると「VILLAGER」という文字と、青年の絵が描かれていた。
なるほど。
スペルから考えるとこれが村人か。
緑の帽子をかぶった青年が右に視線を向けている。左下には+1という表記があった。
「みなさん、確認しましたかー? VILLAGERが村人、SEERが予言者、WEREWOLFが人狼、LYCANがライカン、いわゆるオオカミつきになります」
みんなが自分のカードを確認している。
「このゲームには昼のフェイズと夜のフェイズがあります。昼のフェイズでは、みんなで話合いをして、誰かひとりをリンチにかけます。そして夜のフェイズは人狼が村人を1名襲います。これを何日か繰り返し、人狼をすべてリンチにかければ村人の勝ち、逆に村人を襲い続け、村人チームと同数になれば人狼の勝ちとなります。もちろん自分の役割を素直に話してしまってはこのゲームは成立しません。人狼は自分が村人だと偽り、なんとか村人を人狼に仕立て上げてリンチを回避しなければなりません。なので、いかに上手に嘘をつくかが重要となります」
「リンチにかける人はどうやって決めるのですか」
若い女性が声をあげた。
「いろいろなバリエーションがあるのですが、今回は無記名投票を採用します。昼に話合いをし、それから自分がリンチにかけたいと思う人を無記名で記入してもらい、最多得票の人がリンチにかけられます。リンチにかけられた人は、本性を暴かれ、ゲームから脱落することになります。そして、以降、ゲームに口をはさむことも控えてもらいます。でないと、人狼側に不利になることがあるので」
泉が辺りを見回してから、話を続ける。
特に質問はなさそうだ。
「夜のフェイズではみんなが目をつぶり、まず人狼だけが目を開けます。それでアイコンタクトや手振りで相談しながら、誰を襲うのかを決めます。指で差すのがわかりやすいでしょうね。でも、このとき音を立てないように気をつけてくださいね。それでバレてしまっては元も子もないので」
確かに話し合いのゲームなのにそれと関係ないところで正体が分かってしまっては興ざめだ。
「それが終わったら今度は予言者が目を開けます。予言者は誰かひとりを指さします。そして、その人が人狼かどうかを司会であるわたしが教えます。村人ならこのようにVサイン」
泉が右手でVサインを作り、みんなに見せる。
「VILLAGERのVですね。そして人狼ならWを出します」
両方の親指を合わせ、その両側に人差し指を立てて、Wをかたどる。
手で表すから目を開けている予言者にしか情報は分からないということか。
「翌朝、みんなが目を開けて、今回の犠牲者が誰だったのか発表されます。今回は役割も少ないので、その人が人狼かそうでないかを一緒に告げます。ここまでだいたい理解できましたか?」
みんながうなずいたり、小さい声で「はい」とか「ええ」などと答える。
「ただし、そこで問題になるのがライカンです。予言者がライカンを指すと、正体は人狼だと判断されます。さらにライカンが殺された場合、正体も人狼だったとされます。あー、ちなみに今回の正体の暴き方はリンチされた人のカードをわたしが確認して、それが人狼だったか、そうでなかっただけを告げます。なのでカードは公開されません」
何人かがまたちらっと自分の役割カードを確認している。
「ライカンは村人側の人間です。しかし、予言者からは人狼と見られるなかなか厄介な立場です。ライカンの人はがんばってくださいねー」
泉はにこにこしながら全体を見渡した。
「さて、これでだいたいのルールの説明は終わりです。あとはやりながら誰が何をすればいいのか指示をしていきます。とりあえずやってみないと分からないと思うので、やってみましょう」
そう言って泉は大きく手をたたいた。

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エフゼロX

大学は、1・2年のうちにある程度単位をとってしまえば、それ以降はだいぶ楽だった。午前中で授業が終わりということもあったくらいだ。
なので、友人らとゲームをしたり、カラオケに行ったりと、お気楽な生活をしていた。
いろいろ遊んだ中で、一時期、ニンテンドー64のエフゼロXというゲームにはまっていた。
エフゼロというのはレースゲームである。
スーパーファミコン時代から続いている、ニンテンドーの定番ゲームの1つだ。
操作するのは車ではなく、ホバリングしている宇宙船のような機体である。
サイバーな感じの舞台で、出せるスピードも車とはケタ違いだった。ちなみに大乱闘スマッシュブラザーズに出てくるキャプテン・ファルコンはこのゲームのキャラクターである。
64はコントローラをさすところが4つあったので、画面を分割した同時対戦も可能であった。
だが、我々のやっていたのは、ひとりで遊ぶタイムアタックであった。
自分1台でコースを走り、ゴールをするまでのタイムを競い合うのだ。
コントローラは人数分持っていたはずなのだが、なぜかこればかりやっていた。
男3人が1台のテレビの前に座り込み、1人がプレイし、残り2人がその様子をガヤガヤ言いながら観戦する。
これを夜通しやっていた。
もちろん見ているだけだと飽きてくるので、ひとりがプレイしている間、マンガを読んだり、携帯ゲーム機で遊んだり、飯を食べたりしていた。
夜が更けてくると当然寝始めるわけだが、そのときも誰かしらやっている。
ふと目覚めると、暗がりの中、テレビの光に照らせれながら真剣な顔をしてプレイしている男の姿が見え、「ああ、これが青春か」と思った。
ちなみにこの内のひとりは共に「ディアブロ」と闘った戦友(とも)でもある。
夜が明けてきて、画面を見るとだいぶタイムが更新されていて、その隣で力なく笑う疲れ切った友の姿があった。
「へへ。やったぜ」
「よし。あとは任せろ」
そう答えると、彼は布団に倒れこんだ。
そしてまた、孤独な戦いが始まる。
試行錯誤しながら、タイムを削ることに腐心する。
すぐに闘い疲れた男の寝息が聞こえる。ちらと振り返ると男は満足そうな表情を浮かべている。
「これが青春だ」
再度思いながら、わたしはまた走り出す。
カーテンの隙間から、我々を祝福するようなやさしい朝日が注ぎ込まれた。


暖かな午後の衝撃(04’02)

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