カテゴリー : 人物

不思議人体

エピソードに欠かない数ある友人知人の中でも、上位に位置する男、ここでは仮にトリと呼ぶことにする。
彼はなかなか独創的なタイプで、発想や言動が常人には理解できないことが多い。
今回はその中のひとつを述べたいと思う。
彼は音痴である。
これは自他共に認めるもので、みんなが本人に事実を言えずに曖昧な笑みを浮かべる必要もない。
先日、彼とカラオケに行ったときのことである。彼と行くのは3~4カ月ぶりくらいのことであった。
彼の習慣として、カラオケに行くという旨を伝えておくと、前日に歌いたい曲を何度も聞いてくるというものがある。そのときも、ある曲を相当に聞きこんできていた。
そしていざ、その曲を歌い、
「おれってこんなに音痴だっけ? マジで? ちょっとショックなんだけど……」
と本当に驚いた表情を浮かべ、一言もらした。前日に何度も聞いているだけに、音の違いが明確に分かったらしい。こういうものは違うと分かっていても調整できないものなのかと思いつつ、「うん、そうだよ」と答える。
それからここで、さらにひとつ重要な要素を追記する。
彼は花粉症である。
もともと鼻がよくなく、一年中グズグズなっているのだが、このシーズンになると見ていて憐れに思えるほどである。以前、目がかゆいと言って、かきまくっていたら目じりから血が出たほどである。目から血が出るなどというのは、なかなかお目にかかれるものではない。
その日もマスクをしていたのだが、花粉はそれほどでもなく、くしゃみなどもしていなかった。そのまま何事もなく、マスクもとって普通にカラオケに興じていた。
2時間半くらいそのままだったのが、あることをきっかけに信じられない光景を目の当たりにする。
わたしは、某アーティストの「flower」という曲を入れた。画面にはそれに合わせて、一面の花が映し出される。
そこで、今までまったくくしゃみをしていなかった彼が2、3度くしゃみをしだした。
その段階では「まさかな」と思っていたのだが、次に彼がまた画面に花が映し出される曲を入れると、くしゃみが立て続けに出始め、歌いながらくしゃみをしだした。
どう考えてもバーチャル花粉にやられているとしか思えない。
最後に空からの光景を映した曲のときも盛大にくしゃみをしていたので、なぜにこれでも?と聞いてみると、大空に自分がはばたいて、膨大な量の花粉を浴びるイメージが浮かんだからという答えだった。
人体とは実に不思議なものである。
というより、トリが不思議なのか。


これもO力なのか

全国の有名なラーメン店が1か所に集まる、いわゆるラーメン博物館的なものは、現在、日本にどのくらいあるのだろうか。
2匹目のドジョウを狙ったそれらのテーマパークの内、どのくらいが継続して収益を得ているのか気になるところである。
数年前、とうとう県内にも、そういうスポットができるということを友人Oから聞かされ、ラーメン好きとしては矢も盾もたまらず、オープン初日から行ってみた。
11時オープンということだったが、どうせ行列になるだろうということで10時過ぎには到着。
平日の昼間ということにも関わらず、案の定、すでにかなりの列ができていた。列は店の前だけでは収まりきらず、立体駐車場の階段を上るような形でうねうねと続いている。
「おー、結構いるなぁ」と思いつつ、最後列につける。前には4~50人位いるだろうか。
手渡された店舗一覧のパンフレットを見ながら、どこの店に行こうかなどと話していると、テレビクルーの姿がちらほらと見える。オープン初日ということもあり、いくつかの局が取材に来たようだ。
行列の脇を歩きながら対象を探していた、あるテレビ局が、なんとOにマイクを向けた。彼は、こなれた様子でインタビューの受け答えをし、わたしはただ黙って隣に立っていた。ちなみにこの様子は、その日の夕方のニュースで放映された。
そうこうしているうちに、ようやくオープンとなり、人がどっとなだれ込む。
あらかじめ目星をつけておいた店に速やかに入店。極細麺のとんこつの店である。開店早々ということもあり、並ぶこともなく無事に席につけた。
そして、驚くべきことに、ここでもまたOはテレビのインタビューを受けた。(ちなみにさっきとは違う局)どれほどマスコミを引きつける力を持っているのだ。インタビューを受けるだけでもかなりの確率なのに、それが2件もとは。これもまたO力の為せる業なのか。
ラーメン自体はなかなか旨く、並んだ甲斐があったと思える出来だった。
店を出ると人、人、人で混雑の極みであった。さすがに、これから2軒目かという感じでもなく、外に出た。
オープン記念ということで、そこの店の団扇と、テーマパーク自体のタオルをもらった。タオルは今でもちゃんと保存してある。
オープン当初こそ人でごった返していたが、時が経つにつれ、だんだんと客足は遠のいていった。平日の昼間だと、行ってもどこもガラガラで、並ばずに食べられた。
これはヤバいなと思っていると、案の定つぶれてしまった。
つぶれるということがニュースになるとき、当時の映像としてOのインタビューがまた使われたそうだ。


K兄弟

Kには兄がいる。わたしの1つ下なのだが、彼は県外に一人暮らしをしている。彼は盆正月やGWには帰ってくるので、その頃を見計らってわたしも従兄弟の家に行く。
タイプの全然違う兄弟で、兄の方はほとんどの時間をゲームやアニメに興じている。弟はそんなにゲームをするわけでもないし、アニメにも興味がない。
「そんなんじゃ兄貴いつまで経っても彼女できねえぞ」
「いいよ、ゲームあるから」
と、まるでマンガか何かのような会話をしていたこともあった。
そういう感じだから、もちろん話も合わなく、1つしかない子ども部屋のテレビを兄が独占することになり、弟の方は途方に暮れることになる。
そこでわたしが呼ばれるわけだ。
3人で出来るようなゲームを持参したり、兄の話し相手をしたり、どこかに遊びに連れ出したりで、兄弟の時間を楽しいものへとプロデュースする。
そうこうして日が暮れると、車でスーパー銭湯に行く。このときは必ずKと2人だ。兄の方は自分の身体を見られるのが嫌で、決して一緒に来ない。本人が言うには、かなり毛深いとのこと。別に男同士ならそんなことどうでもいいと思うのだが。
銭湯に着くとまず下駄箱がある。利用するには100円硬貨が必要となるが、これは使用後に戻ってくる。だから実際利用料金はタダだ。
「100円戻ってくるんだから、靴入れたら?」
「いいよ、いいよ。こんなボロいの誰も盗まないべ」
そう言ってKは下駄箱の上に自分の靴を置いた。
身体を見られたくない兄とは対照的に、Kは全然隠さずに浴室に入っていく。
普通の男性はタオルで前を隠しながら入っていくものだが、彼はタオルさえ持っていかない。つまり常にフルオープンだ。
「いやぁ、やっぱ広いのはいいねえ」
などと言いながら、2人でしばし雑談をする。
身体が十分に温まったところで、浴槽を出る。「兄貴も一緒に来ればいいのにね」と少し残念そうに言いながらKは身体を拭いていた。
畳が敷かれた休憩所で、冷たいものを飲み、Kはタバコに火をつける。身体からの湯気と、タバコの煙が混じって昇っていく。普段は吸わないわたしも、1本もらって共に煙を楽しんだ。
そしていざ帰ろうとしたとき、事件は起こった。
「だから言ったのに」
Kの靴がどこにも見当たらない。
盗まれたのだ。
外には深い雪が彼の裸足を待っていた。


Oの斬新なる発明

Oの家に遊びに行った。
友だち数人で原付に乗って行ったのだが、結構な距離があり1時間半くらいかかった。夏の強い日差しの中を進んだので、くっきりとシャツの跡がつく。ちなみに鼻の中も排気ガスで真っ黒だ。鼻をかんだとき何事かと思った。
長い行程を経て、ようやく家に到着する。
部屋に入るとすぐに物色が始まる。我々は麻薬取締官のように入念に部屋を調べていった。
すると出るわ出るわ、怪しげなものが。
まずは視力を回復させる円筒状のマシン。使用したら本当によくなったそうだが、使うのを止めると途端に元に戻ったそうだ。これはもういらないと言っていたので、友だちのひとりが譲り受けていた。
次は大量のプリングルスの空き筒。10本以上はある。何に使うのかと尋ねると「何か役に立ちそうだから」と、特に意図もなく集めている様子だった。未だにそれが有効活用されたという話は聞かない。
数ある怪しげなものたちの中で、最も驚くべき発見は彼のオリジナルあみだくじであった。
1枚の紙に縦線と横線が張り巡らされ、24、125、98など、どういう関連性があるのか不明な数字が、あみだの先に書かれている。
この驚愕なるアイディアは小さなお子様や純粋な心をもつ方々、または夢の世界の住人たちには読むことをお勧めしない。該当される方は他の話をご覧あれ。
では、話を続けよう。
プラン実行に際しては周到な準備が必要である。
まず男性の欲望を満たすような色艶やかな雑誌を用意していただきたい。
次に、それを熟読しつつ、自分の感性に訴えかけてくるようなヴィヴィッドなページをメモする。
最後に、メモした数字の数だけゴールがあるあみだくじを作成する。書き上げたらならば、メモしておいたページ番号をそれぞれの先にくくりつけていく。
これで準備は完成である。
あとは、猛々しいリビドーがはちきれそうな夜に、先ほど作成したオリジナルあみだくじと対応した雑誌をおもむろに取り出す。
そして、事に及ぶ際に、いよいよあみだくじの登場である。
あみだくじを使うと、どれに当たっても自分の好みのページが出現するという仕組みだ。
これにより娯楽性とランダム性が高まり、プレイの度に違うページが開く。違うページだが、どれも自分の好みのページなのだ。
なんという斬新なアイディーア!
もはや呆れるを通り越して、感心してしまったよ。


my cousin

Kの話をしよう。
以前「疾走ナイト」に登場した彼だが、実はわたしの従兄弟である。
なので小さい頃からよく知っており、彼にまつわるエピソードは枚挙に暇がない。
最近車を替え、昔のような無茶な運転はしなくなったものの、この前、雪道できれいに1回転したことを笑いながら話していた。(冬なのにスタッドレスをはいてなかった)
彼は背があまり高くなく、顔も童顔なため、よく未成年と間違えられることがあった。かなりの年齢まで子ども料金で済んだというメリットとともに、厄介なデメリットもあった。
まずホームなどでタバコを吸っていると、かなりの確率で駅員や見知らぬおばさんなどに注意される。自分はもう20歳を過ぎていると説明しても、疑いの眼差しを向けられるため、常に免許証を常備しなければならない。
酒を買いに行ったときは、レジのおばさんが敵意をむき出しにして買わせまいとしてくるので、ここでも免許証を提示した。だが、ばつが悪かったのか、それを見てもなお彼女は憤然としていたそうだ。免許証を見ても納得いかなかったらしい。これ以上どうしろというのだろうか。
また、Kには面白い習性がある。
飲食店などに行くとしばしばその店のオススメを聞くのだ。
”What do you recommend?”
(オススメはなんですか?)
と、英語圏ではよく使われるフレーズだが、そんなことを彼が知っているはずもない。
そしてとりあえず聞くことは聞くのだが、大抵それを注文しない。メニューを見ながら「これはあんま好きじゃねえな」とか「こういう気分ではない」などと言いながら、ほぼ確実にそのオススメは頼まない。というか、彼が薦められたものを頼んだのを見たことがない。なので、店員も営業用スマイルをはりつけ、何とかそれに耐えていた。
あるとき、メニューの他に各店員が薦める料理一覧のようなものがあった。店員の顔と料理の写真、それからコメントが書いてあるようなやつだ。注文の際、それを見ながら「この○○さんお願いします」と店員を指名していた。おいおい、ここは焼肉屋だよ。店員は一瞬「え?」みたいな驚きの表情を見せたが、すぐに笑顔にすり替え「今日、この子は入ってないんですよ」と切り返した。すると「ああ、そうなんですか。じゃ誰にしようかな」などと言い出すので、慌ててわたしが料理を注文した。
さらにすごいことに、彼はコンビ二のおでんでもオススメを聞く。結構な蓄積されたデータがあるらしく「○○は××を薦めることが多い。それに対して△△は□□」などと、恐らく人類初ではないかと思われる研究成果を披露してくれた。
トータルで見るとやはり大根やたまごなどが多いそうだ。まあ、ご参考までに。