カテゴリー : 中学

ナミダナミダ

答辞を読むことになった。
卒業式のときに、卒業生代表が読む例のアレである。
もちろんその時期は、受験まっただ中なわけだが、幸運にも推薦入試で高校が決まっていたわたしには、時間は十分にあった。
ということもあってか、かなりスパルタな指導だった。
まず原稿は書いても書いても書き直し。
細かい部分を修正され、そのたび原稿用紙に向かう日々。放課後ひとり残って書いていると、受験生であるクラスメイトから応援されることもあった。
ちなみに担当してくださった先生は、国語の先生なのだが、それと同時に部活の顧問でもあった。(参照:テニスは○○だ
部活のときの彼は、他の部活の人たちが引くほどの厳しさで、よく我々は怒鳴られたり、説教されたりしていた。
一方、国語の時間はそんなことはなく、どちらかというと温厚なスタイルであった。怒られたりすることも、まずない。
そしてこの答辞に関しては前者のスタンスであった。
書き直しを繰り返し、やがて日が暮れると、犯人でもないのにカツ丼をとってもらった。
さらに、なぜか残っていた他の先生方も教室に集まってきて、総勢6人の先生(しかも全員男)が、自分を取り囲むフォーメーションを取った。
その中で遠慮しないで食べろというのは土台無理な話である。
そもそもわたしは昔から緊張すると、ものが食べられなくなるタチで、大会の前日の夜からほとんど何も食べないということもある。無論そんなシチュエーションで完食できるはずもなく、ほとんど残してしまった。
そうこうして何とか書き上げた原稿をもって、今度は読む練習である。
体育館の壇上に立ち、朗々と原稿を読み上げる。
「そこは感情こめて」
「もっと間をあけて、伝わるのを待って」
「そのときは悲しかったかもしれないが、今は悲しくないんだから、そんなに暗い口調にならず、今から昔を振り返るような口調で」
などなど、さまざまな注文が飛んできて、そのたび中断して、読み直した。
クライマックスで何とか泣けないのかという提案もあったが、さすがにそこまで感情をコントロールできなかった。
そして迎えた本番。
アドバイスされたことを総動員して、見事答辞は成功に終わった。卒業生らがすすり泣く中、わたしは練習の辛さを思い出して泣きそうになった。
後日、PTAの人からも、ここ数年で1番よかったとのお言葉をいただいた。
しかし、ひとり夜9時まで残されて、男の先生たちに囲まれるのは、もう御免である。


ろうそくの火の中で

中学生のとき、学年全体で行う合宿があった。何の合宿であったか、記憶は定かではない。
日中ひとしきり外で活動した後、夜にキャンドルサービスというものがあった。
生徒会役員や、学級委員などが、民族衣装のように、肩から大きな白い布をまとい、両手に大きなろうそくを持つ。その白の一団と向かい合うようにして、他の生徒が整列している。
照明は暗闇とまではいかないまでも、ある程度抑えられ、ろうそくの淡い光が引き立つようにされている。
薄闇の中に、ゆらゆらとオレンジの光が幻想的に揺らめく。
わたしも同じように白い布を巻き、頭には月桂樹の輪を乗せていた。
立っている場所から少し離れたところに、複雑に入り組んだ古木がある。高さは7~80センチで、横幅も同じくらい。その入り組んだ枝々に、小さなろうそくが立っている。十数本はあろうか。それらにまだ火は灯されていない。
それにわたしたちが火をつけていくというのが、このセレモニーのメインであった。
普通に歩くのではなく、一歩進んでは両足をそろえる、というゆっくりとした歩調で進んでいく。
全員が古木を取り囲んだところで、おもむろに各自が手にしているろうそくの火を、小さなろうそくに当てていく。
ポッ、ポッと小さな明かりがだんだんと数を増やす。
なかなか非日常的で、神秘的な光景だった。
まだ火がついてないやつはないかと、慎重に木を見回す。奥の方に何本か残っていた。腰をかがめ、奥へと手を伸ばす。
微妙な位置にあるので、なかなか火がつかない。その姿勢を維持しながら、点火を待つ。
すると「おい」と小声が聞こえた。
友だちがちょっと驚いた表情を浮かべ、わたしの方を見ている。
何かあったのか。
火が灯されたのを確認して、立ち上がるとどうも変な匂いが鼻をついた。今までにかいだことのない匂いだ。彼の目線はわたしの額の方を向いている。
「まさかっ」とは思ったものの、そのまま何事もなかったように振る舞い、そのセレモニーを終わらせた。
すべてが終わって着替えているときに、「お前、頭から煙出てだぞ」と言われて、匂いの正体を悟った。あの匂いは髪が焦げる匂いだったのだ。
恐ろしいくらいに臭かったので、風呂の前に友だちに切ってもらった。
それにしても、坊主頭なのに、よく燃えたものだ。


ボウズライフ

3年間坊主であった。
もちろん寺にいたというわけではなく、髪型のことだ。
当時わたしが住んでいた近辺の中学校では、男子がみな坊主頭であった。
もちろんこれは校則で決められていることであり、定期的に頭髪検査なるものもあった。教師が頭に手をのせて、指の間から髪が出るようだと注意されるのだ。教師の指の太さによって基準が違うというなんともファジーな検査であった。
確かに坊主にもメリットはある。
たとえば、髪を洗ってもすぐ乾く。もちろんドライヤーなど必要ない。洗って拭いてほっておけば自然乾燥だ。
それから寝癖がつくということもまずない。朝寝過ごしたと思っても、すぐに支度ができる。
セットする必要もないので、整髪料なども買わなくて済む。実に経済的。
だがもちろんデメリットも少なくない。
まず、寒い。
夏はいいのだが、冬はたまったものではない。地肌に直接寒風が吹きつけるのだ。外で運動していると頭から湯気が立ち昇り、戦闘力が爆発的に上がったような感じになる。
そして、なんといっても坊主というのは恥ずかしいのだ。
普段は周りもみな同じなので、特に何も感じない。
だが、修学旅行などで出かけたりすると、自分たちの異質さを強く思い知らされる。
学生服を着た坊主頭が集団で歩いていると、それなりに目立つのだ。人によっては通り過ぎざまに、くすくすと笑ったりもする。現に「きゃ。坊主」と露骨に笑われたこともあった。そういうときはなぜ我らがこんな目に遭わなければならないのだと世知辛い世間を憎んだものだ。
男子全員坊主という風習は田舎でしか見られない光景だろうと思うのだが、そもそもなぜそのような校則を決めたのだろうか。
もともと髪の毛というのは大切な頭を保護するために生えているはずだ。それを全て剃ってまで守るべき「何か」があったとはとても思えない。もしそういうものがあるならば、今でもこの習慣は続いているはずだ。
果たして、未だに男子全員が坊主の公立中学校というのは存在するのだろうか。
ないならば、なぜわたしたちは坊主でなければならなかったのか。
まったくもって謎である。
最後に、3年間坊主にしてみてわかったことがある。
どういうわけか髪質が変わるのだ。小学校のときは真っ直ぐ伸びたわたしの髪は、今では若干癖がつくようになった。友だち何人かからも同じ話を聞いたので、特殊なケースというわけでもなさそうだ。
これもまた、まったくもって謎である。


テニスは○○○だ

どうやら楽らしいという噂を聞いて、ソフトテニス部に入った。
それが中学に入ってすぐのとき。
入部してみると、確かにそれほど練習もきつくなかったし、ボールがまっすぐ打てるだけで楽しかった。
それが中学1年生のとき。
中2になると、顧問の先生が変わり、練習量もやり方もがらりと変わった。
H先生はテニスに関してはまったくの素人で最初はルールすらも分からなかった。今までずっと野球をやってきたらしい。「野球だったらおれは絶対に県大会まで行かせることができる」と豪語してらした。
いわゆる熱血という言葉が似合いそうなH先生はいろんなところから情報を収集してきて、声のかけ方から、練習方法まで、部活全体をどんどん変えていった。
走らせられる量も半端じゃなく、それまでの数倍は走るようになった。そのおかげで男子テニス部員は、みなマラソン大会での順位があがったくらいだ。
結果として、1つ上の先輩たちは見事に個人団体ともに県大会出場を果たした。それまで準決勝にすら縁がないような部だったので、快挙といってよかった。
やれば結果が出ると実感した我々は毎日毎日ハードな練習を乗り切った。
迎えた新人戦。わたしたちのパートは優勝候補であるM中の1パートと戦うことになった。練習試合のときはまったく歯が立たず、力の差を痛いほど思い知らされた。が、このときの試合はかなりの接戦で惜敗だった。彼らはそのまま順調に勝ち進み、結局その大会で優勝した。
再び厳しい練習が始まる。部員同士のいざこざもあったが、何とか1人も欠けることなく、中総体の前日を迎えた。
練習が終わって、コートの外に全員並べられる。先生が神妙な面持ちで、腕組みしながら仁王立ちをしている。
「よし。全員そろったな」
ようやく呼吸も整ってきたわたしたちは大きな声で返事をする。
「いよいよ明日だな」
みんなが黙って頷く。
「いいか、お前ら、テニスはう○こだっ」
へ?
「キレのいいときもあれば、悪いときもある。明日はそのどっちかわからんが、精一杯やってこい」
そこでようやく笑いがもれ、わたしたちは大きく返事をした。まさかのたとえ話にかなり驚き、いい具合に力が抜けた。
そして大会当日。
宿命のM中のパートと準決勝で当たり、撃破。決勝も辛勝し、わたしたちのパートは個人で優勝した。団体も準優勝という優秀な成績だった。
これもすべてH先生のおかげだと思う。


幼き戦士たちの夜

中学生のときだったろうか。
従兄弟など5人くらいと祖父母のところに泊まっていたときのことである。
全員男だったので、変な気も遣わずバカなことばかりを話していると、自然と話題は下ネタの方にシフトしていった。
まだ純粋であった我々は、未知なる性というものに対し、いささか興奮しながら議論を交わし始めた。
「そういや、あそこの本屋に自販機あるべや」
「あー、あるね」
「あそこでエロ本売ってるよ」
「なにっ!」
テンションがヒートアップし、猛々しい好奇心は我々の身体を突き上げた。高まる感情を抑えながら、大人たちが寝静まるのを待つ。
そして、暗闇の中、男たちは自転車をまたいだ。
田舎の町ということもあり、夜遅くなるとどの店も閉まっている。街灯のぼんやりとした明るさだけが町を照らす。
その中を疾走する幼き戦士たち。
瞳には熱き炎が灯っている。
「ここか」
辺りを窺いながら、我々はとうとう自販機と対峙した。
「どれにしようか」
「どれでもいいから早くしようぜ」
財布から小銭を出し、投入していく。それは男たちの情熱を注ぎ込むかのようであった。
ガコンッッ!
静寂を打ち破る、本の落下音。あまりの音の大きさに、身体がこわばる。そして、そわそわと辺りを見回す。
「な、なにぃぃ!」
本を取り出したひとりが驚きの声をあげる。それに回りも驚く。
「どうした?」
「これを見てくれ」
両手に載っていたものはサンデーであった。わたしたちは目を疑った。
「確かにこのボタンを押したんだ」
彼の指先には、確かにそれっぽい表紙の雑誌がある。
「くそっ。なんて卑怯なマネを」
もちろん苦情など言いに行けるはずがない。
「仕方ない。別のやつでいってみよう」
そういってまた情熱を注ぎ込む。
ガコンッッ。
今度はちゃんと目当ての本が出た。かわいらしい女性の絵が、我らを祝福しているかのようだ。
「よし。帰るぞっ」
高鳴る鼓動を胸に、わたしたちは再び夜の町を疾走するのであった。