極楽式御伽噺 その壱

どうもおれは桃から生まれたってことになってるらしい。
そんな馬鹿なって思うかもしれないが、ばあさんがそう言ってるのだから信じるしかない。だいたい生まれたときの記憶なんて覚えてるわけないだろ?
おれはじいさんばあさんも驚くような急激なスピードで成長し、生まれた一週間後にはもう立派な青年になっていたそうだ。確かにおれには一週間前辺りまでの記憶しかない。
その頃、村では鬼の話がしばしば話題にのぼった。
見上げるような大鬼が、村にやってきて、悪さをするらしい。
悪さといっても、落とし穴を作ったり、干し柿を盗んだり、玄関の前に犬のフンを置いていったりと、とりたててさわぐほどのものではなかった。
けれどもそれがたびたび続くので、村人たちは業を煮やし、鬼どもを退治しようと決心した。
そこまではいいのだが、いざ誰が行くかという話になるとみな口々に「あぁ、歯が腹痛だ」とか「更年期障害が」とか「親父が明日危篤なので」とか「塾の時間が」などと、でたらめな理由をぬかしやがるので、なかなか決まらなかった。
そこでおれに白羽の矢が立ったというわけだ。
おれは仕事にもつかず、ただ一日中緩衝材のプチプチをつぶして過ごしていたので、断る理由も思いつかず、結局行くことになってしまった。
ばあさんは途中お腹も空くだろうといっておにぎりを何個かくれた。
なにかが違うなぁと思ったが、それがなんなのかはわからなかった。

鬼どもは鬼ヶ島という島に住んでいるそうだ。
じいさんから地図をもらったのだが、そこには富士山と、公園と空き缶と犬小屋しか目印がなく、使い物にならなかった。彼はきっともうアレなんだろうと諦めた。
そう思って地図をぶん投げると、後ろから声をかけられた。
「おい、お前。ゴミを捨てるんじゃない」
振り返ると二本足で立つ犬がいた。白なのだが、ところどころ薄汚れていて、トータルで見ると灰色に近かった。
「お前、犬のくせにしゃべるのか?」
と、尋ねると、
「そういう設定だからいいのだ」
と、犬は答えた。
設定とはなんなのだろうと思ったが、考えても答えはでそうになかった。
「おや」
犬はおれがぶん投げた地図を拾ってながめながら声をだした。
「なんだよ」
「お前、鬼ヶ島に行くのか?」
「ああ」
「ならこれを捨てちゃまずいだろ」
「そんなもの見たってわからないし」
「ああ。ヲタク、地図が読めないタイプ?」
「は」
「隠さなくてもわかるぜ。なんならおれが連れて行ってやろうか」
「それで分かるのか?」
「ああ。ウチの近くだし」
「なら頼む」
そういうと犬はにやりと笑った。
「タダというわけにはねえ」
世知辛い世の中だ。
「あいにく今持ち合わせがないんだ」
「なら、きびだんごをくれよ」
「きびだんご? そんなもの持って歩くやついないだろ」
「そりゃそうだな」
「おにぎりならあるが」
「じゃ、それでいいや」
おれはカバンの中からおにぎりを取り出し、犬の前に投げた。
「おい!」
「ん?」
「落ちてる!」
「?」
「こんな落ちたもの食えるかっ」
どうやらおれが持っている犬のイメージとは若干違うようだ。
「ああ、すまんすまん」
そういって手渡しで渡すと、犬はにやりと笑った。
けれども手で受け取ったはいいが、そのまま食べることはできないらしく、結局地面において四足で食べた。世の中の理不尽さを強く感じた瞬間だった。
「さて、行こうじゃないか」
ようやく食べ終わるとまた犬は立ち上がった。
どうやら二足歩行らしい。
めずらしい。
「おい、そういえばあんた名前なんていうんだ」
歩き始めて数分すると犬が尋ねてきた。
「おれか? ああ、そういえば名前付けてもらうの忘れてた」
いつも桃の人と呼ばれていたので、ちゃんとした名前がなかった。
「のんびりやさんだな。それならおれがつけてやろうじゃないか」
犬に名前をつけてもらうのは不本意だったが、ないならないで困る。心の葛藤をしていると、犬はどうやら思いついたようだ。
「ポチはどうだ?」
「ポチ? おれの村ではあまり聞かない名前だな」
「そうか? おれの周りには結構いるぜ」
「というか、お前の名前は?」
「おれはジョンだ」
「じょん?」
「異国ではよくある名前なんだ」
「へえ。ハイカラだな」
「それで、どうだ。ポチもなかなかいいんじゃないか? カタカナだぜ」
「そうだな。じゃそうしよう」
という具合におれの名前はポチになった。
以後よろしく。

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