キミが人狼 1

20120223120714

扉を開けるともう何人かいるようだった。
公共センターの一室には、長方形に並べられた長机とパイプイスが置かれ、男女さまざまな人たちが座っている。
「やあ、どうもはじめまして」
メガネをかけた快活そうな青年が話しかけてくる。
切れ長で涼しげな目元が印象的だ。
白のシャツに黒の細めのネクタイをしている。
歳は30にいくかいかないかというところだろうか。
「えーと、お名前は?」
「あ、えーと」
「ハンドルネームでかまいませんよ」
「カヲルです」
「あー、カヲルさんですか。なるほどなるほど」
彼は、ぼくの全身をざっと見て、何度かうなずいた。
「わたしは主催者の一人の泉といいます。こういう会に参加されたことは?」
「はじめてです」
「そうですか。じゃぜひ楽しんでいってくださいね。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
軽く頭を下げる。
「とりあえずまだ時間があるので、空いているに座っていてください。あ、あとこれが今から遊ぶゲームの簡単な説明です」
A4の紙を1枚手渡される。
それを持って、奥の席に座った。
「この会ははじめてですか?」
隣の席のおじさんが話しかけてきた。
40歳くらいの柔和な顔をした人で、若干髪が薄い。フレームのないメガネをかけていて、落ち着いた雰囲気がある。低い声がなんとも心地がよい。
「はい。はじめてです」
「そうですか。わたしもそうなんですよ。あ、わたしタケヤマといいます」
「あ、カヲルです」
「今日は何人くらいくるかご存じですか?」
「あ、え? ちょっとわかんないです」
「そうですか。イスの数からすると10人前後でしょうかね」
「そうですね」
「ふふ。楽しみだな」
タケヤマはルールの紙に目を落とした。
ぼくもつられるようにして、さっきもらった紙を見る。

・対話型推理ゲーム「究極の人狼」
このゲームは「村人チーム」と「人狼チーム」が対戦するゲームです。
村人チームには人狼が誰なのかわかりません。
なんとかして人狼を探し出してリンチにかけないと、毎晩ひとりずつ村人が襲われてしまいます。
人狼は自分が人狼だということをばれないように、細心の注意を払わなければなりません。
村人と人狼。
果たして勝つのはどちらでしょうか?

てっきりボードやカードを使うゲームだと思っていたのだが、どうやら今回のゲームは、人と人との話合いで行われるようだ。
対話型推理か。
どんな感じなのだろう。
あんまり話すのは得意じゃないんだよなぁ。
紙をテーブルに置き、辺りを見回してみる。
さっきの泉を合わせると、現段階で部屋には9人がいた。
若い女性の2人組、高校生くらいの男の子、いかにもオタクっぽい小太りの男、30代手前くらいのカップル、あとはさっき挨拶したタケヤマ、それから泉だ。
席はあと2つ空いている。
「えーと、そろそろ時間なんですが。んー、まだ来られませんね。どうしようかな」
泉がそう言ったところでちょうどドアが開いた。
「遅れました、すみません」
開口一番、入ってきた男が頭を下げる。
隣には小学生くらいの男の子が立っている。
「あー、よかったよかった。今からはじめるところですので、どうぞ座ってください」
そう言って泉は紙を2枚手渡した。
「はいっ。すみません。ほら、翔、そこ座って」
親子なのかな。
せかすようにして男は子どもを席につかせた。
男の子はちょっと緊張した面持ちで黙ってイスに腰かけた。
「えー、みなさんそろいましたようなので、説明をはじめたいと思います」
泉が今までよりちょっと声をはって、注意を呼びかける。おしゃべりが止み、みんなが彼を見る。
「本日はこのゲーム会にお集りいただきありがとうございます。今日は10人もの人がいらっしゃるということで、何をしようかなと考えたのですが、せっかくなのでみんなで一緒にできるものをしようと考えました。これから遊ぶゲームは、いわゆる人狼系と言われるものの1つ、究極の人狼です。あ、ちなみに人狼系のゲームやったことがある人、手を挙げてください」
小太りの男、男子高校生、そして後から来た男の子が手を挙げた。
「お、君も経験者か。これは油断ならないな」
泉がニコニコしながら男の子に話しかけると、彼は恥ずかしそうにうつむいた。
「それではルールを説明させていただきます。これからみなさんには役割カードが配られます。これは非公開になりますので、他の人に見られないようにしてください。今回使う役割は、人狼が2枚、予言者1枚、ライカン1枚、村人が6枚です。あー、実際にもうカード配ってしまった方がいいかな」
プラスチックケースから数枚のカードを取り出し、枚数を確認すると、泉はテーブルを回り、ひとりひとりにカードを裏にして配り始めた。そこには恐ろしげな狼の顔のアップが描かれている。
「カードを見て、自分の役割を確認してください。でも、何も言わないでくださいね。それがヒントになるので。表記は英語ですが、これから全部説明するので、気にしないでください」
カードを受け取り、確認すると「VILLAGER」という文字と、青年の絵が描かれていた。
なるほど。
スペルから考えるとこれが村人か。
緑の帽子をかぶった青年が右に視線を向けている。左下には+1という表記があった。
「みなさん、確認しましたかー? VILLAGERが村人、SEERが予言者、WEREWOLFが人狼、LYCANがライカン、いわゆるオオカミつきになります」
みんなが自分のカードを確認している。
「このゲームには昼のフェイズと夜のフェイズがあります。昼のフェイズでは、みんなで話合いをして、誰かひとりをリンチにかけます。そして夜のフェイズは人狼が村人を1名襲います。これを何日か繰り返し、人狼をすべてリンチにかければ村人の勝ち、逆に村人を襲い続け、村人チームと同数になれば人狼の勝ちとなります。もちろん自分の役割を素直に話してしまってはこのゲームは成立しません。人狼は自分が村人だと偽り、なんとか村人を人狼に仕立て上げてリンチを回避しなければなりません。なので、いかに上手に嘘をつくかが重要となります」
「リンチにかける人はどうやって決めるのですか」
若い女性が声をあげた。
「いろいろなバリエーションがあるのですが、今回は無記名投票を採用します。昼に話合いをし、それから自分がリンチにかけたいと思う人を無記名で記入してもらい、最多得票の人がリンチにかけられます。リンチにかけられた人は、本性を暴かれ、ゲームから脱落することになります。そして、以降、ゲームに口をはさむことも控えてもらいます。でないと、人狼側に不利になることがあるので」
泉が辺りを見回してから、話を続ける。
特に質問はなさそうだ。
「夜のフェイズではみんなが目をつぶり、まず人狼だけが目を開けます。それでアイコンタクトや手振りで相談しながら、誰を襲うのかを決めます。指で差すのがわかりやすいでしょうね。でも、このとき音を立てないように気をつけてくださいね。それでバレてしまっては元も子もないので」
確かに話し合いのゲームなのにそれと関係ないところで正体が分かってしまっては興ざめだ。
「それが終わったら今度は予言者が目を開けます。予言者は誰かひとりを指さします。そして、その人が人狼かどうかを司会であるわたしが教えます。村人ならこのようにVサイン」
泉が右手でVサインを作り、みんなに見せる。
「VILLAGERのVですね。そして人狼ならWを出します」
両方の親指を合わせ、その両側に人差し指を立てて、Wをかたどる。
手で表すから目を開けている予言者にしか情報は分からないということか。
「翌朝、みんなが目を開けて、今回の犠牲者が誰だったのか発表されます。今回は役割も少ないので、その人が人狼かそうでないかを一緒に告げます。ここまでだいたい理解できましたか?」
みんながうなずいたり、小さい声で「はい」とか「ええ」などと答える。
「ただし、そこで問題になるのがライカンです。予言者がライカンを指すと、正体は人狼だと判断されます。さらにライカンが殺された場合、正体も人狼だったとされます。あー、ちなみに今回の正体の暴き方はリンチされた人のカードをわたしが確認して、それが人狼だったか、そうでなかっただけを告げます。なのでカードは公開されません」
何人かがまたちらっと自分の役割カードを確認している。
「ライカンは村人側の人間です。しかし、予言者からは人狼と見られるなかなか厄介な立場です。ライカンの人はがんばってくださいねー」
泉はにこにこしながら全体を見渡した。
「さて、これでだいたいのルールの説明は終わりです。あとはやりながら誰が何をすればいいのか指示をしていきます。とりあえずやってみないと分からないと思うので、やってみましょう」
そう言って泉は大きく手をたたいた。

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